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  • 2014.07.28 Monday
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「描くのは愛(新装版)」 剛しいら/ ill.朝南かつみ

的場幸洋は父の汚名を濯ぐため、天才贋作師である阿久津脩平の元を訪れ仕事を依頼する。それですべてがうまくいくように思えたが、依頼が完成品の存在しない作品を描く代作だということから事態は一転する。まだ見ぬ作品のためならなんでもすると決めていた幸洋だが、なぜか脩平にキスされ押し倒されてしまう。やらせるのが仕事を受ける条件だと言われた幸洋は何も言い返せず……。書き下ろしSS同時収録。

2009年にショコラノベルスハイパーで出ていたお話の新装文庫版です。描き下ろしSS「描くのは愛欲」(なんてタイトルだ…笑)と、故・朝南かつみさんのラフ画も収録されています。

美術鑑定士だった父親が幻の画家ポイズンの絵画と共に失踪したことでつらい境遇の中で育った幸洋(受)は、父の勤め先だった画廊に捕らわれるように鑑定士として働いていましたが、母親が倒れてしまったことを機に父の汚名を雪ぐ行動に出ます。
ポイズンの絵を盗んだ真犯人をおびき寄せるため、天才贋作師の脩平(攻)に盗まれた絵と対になる絵の贋作を依頼するのですが、前金なしの無茶なその依頼の代償として脩平は、身の回りの世話と幸洋の体を求めてきます。
幸洋はそれを受け入れ、山深いところにある脩平の家で同じく贋作師である脩平の父・忠正と3人の生活が始まりますが。

幸洋は父のいなくなった14歳の頃から画廊の女社長(もちろん年上)に迫られ続けていたために女性に苦手意識を持っており、脩平の要求にはそれほど嫌悪感を抱くこともなくかなりあっさりと受け入れています。
そんなヘヴィーな過去のせいもあってしっかりしている幸洋ですが、と同時に何処かお人よし過ぎるところがありちょっと危うい印書。
脩平は強烈なインパクトのある父・忠正の支配の下で贋作師になる以外の道など選べない状態で成長していて、贋作師としては天才的だけれどもどこか子供みたいなところがあります。
そんな、育った環境も境遇も違うけれど何処か似た孤独を抱えているふたりが惹かれ合うようになるという流れですが、互いに心を許し合うようになるのが早かった気がして、もう少しエピソードがあってもよかったような。。
その後かなり深い絆を結んでいくようになるふたりの関係の始まりにしては唐突だったのが残念です。

幸洋の父と絵画の失踪の真相はスリリングな感じで読み応えがありました。ピリッとした緊張感漂う冒頭からぐいぐい惹き込まれた感じ。
そこに絡んでいく贋作作りという特殊な仕事(?)のことも、プロがああもあっさり騙されてどうすると突っ込みつつも興味深くて面白かったです。
そんなサスペンス風味なお話に、もともとはペンションだったという山奥の広い家での暮らしや脩平がポイズンにとりつかれたように贋作に向かう様子などにちょっと不思議なエピソードが加味されて、そこがとても好きでした。
作中に登場する重要な画家・ポイズンは創作だそうですが、こういう画家ってあの時代なら実在していそうですね(笑)。

終盤のポイズン蒐集家説得のシーンはやや強引…、というかなんだか読んでいるうちに無理矢理納得させられた感があってすっきりしなくて、もうちょっとページがあったらよかったのかなと思いました。
で、最後まで読んで怖いと思ったのは人の執着心ですよ…。
人にしろものにしろ、何かに執着する人の業の深さが起こした悲劇というか…。
幸洋の父がどうなったのか、結局分からず仕舞いですしね…。
幸洋が漏らした「邑上親子は……僕達親子を蒐集したかったのか」という言葉にぞ〜っとしました。

それにしても、脩平の父・忠正がいちばんインパクトあったような(笑)。
あと、風呂場のおっさんに癒されてしまったのは私だけですかw除霊なんてしないで〜〜(笑)

書き下ろしの「描くのは愛欲」はその後、脩平が再びポイズンに取り掛かるお話。
それはそれで面白かったんですが、もうちょっとその後のふたりのラブな様子が見たかった気もしました。

ご遺族の了承のもと収録されたという朝南さんのキャララフは必見です。
旧版刊行時、これの肌色率100%のカバー絵はインパクト大きかったですが、硬質な裸体には不思議とそこまでエロさを感じなかったのを覚えています。
むしろ、朝南さんはいとう由貴さんの「秘蜜」の時のような一糸乱れない着衣姿の絵に危険なほどのエロスを感じさせられました。
そんな不思議な魅力を湛えたイラストレーターさんだったなと、もう見られないことにまた涙してしまいました。

「若獅子と氷艶の花」 あさひ木葉 / ill.朝南かつみ

香港黒社会の覇者・李麗峰に仕える藍永華は、商談のため来日した夜、拉致されてしまう。目覚めた時、体は媚薬に昌され、淫らな熱を孕んでいた。不埓な所業の首謀は東亜覇王会に属する鷹峰宗家の跡目・鷹峰紗一。宴席で永華に口づけ、不遜なアプローチをしてきた男だった。手酷くあしらった報復か、紗一は永華を激しく蹂躙する。絶対に許さない…!体奥を穿たれ乱される屈辱に復讐を誓う永華。けれど獣のような交わりの最中、与えられる愛撫は甘く、快楽に理性も犯され―。

「帝王と淫虐の花」のスピンオフ。
麗峰のクールな片腕的存在といて登場していた永華のお話です。彼のお相手は、小さな組の次期頭になる19歳という若さの男。
雪緒と麗峰もお話にしっかり関わって登場していますので前作がお好きな方は愉しめると思いますが、前作同様黒社会っぽさはほとんどないお話でした。

闇カジノ絡みの商談のため、麗峰の代理として日本に向かった永華(受)。同行していた雪緒の存在に内心は苛立ちながらも面はクールに仕事をこなしていた永華したが、彼の前に日本でカジノ運営を任せている組に属する弱小組織の若きトップ・紗一(攻)が現れて唐突に口説かれます。
女のように見られることを心底嫌悪している永華は冷たく彼をあしらいますが、その後紗一によって拉致され、薬を使われた上に犯されてしまう。
屈辱に紗一を殺してやりたいほど憎む永華でしたが、やがて紗一が見せる年相応な姿や自分にはないなところに惹かれるようになり…。

前作では感情のない印象の永華でしたが今回は最初からけっこう感情の起伏が激しくて、作中何度も永華は「クールだ」と書かれているのに全然そんな感じじゃなかったです。
もともと永華は裡に熱いものを秘めていたようで、てっきりどこまでもクールビューティーな感じを期待していた私はちょっと肩透かしでした。
クールで無表情な男が段々変化していく…みたいな話だと思っていたもので。。
そんな永華の前に現れてさっそく地雷を踏んでしまう(笑)紗一は、19歳という年相応の明るい少年っぽさと小さくても組の次期トップであるだけの豪胆さを持ち合わせている不思議な魅力のある男です。
彼が永華に惹かれた理由が見えて来なかったのが残念ですが、地雷を踏んでも玉砕するどころかやり返してしまう大胆なところがいい感じでした(笑)。

永華が雪緒を嫌っているのは前作でわかっていましたが、その原因が彼の容姿へのコンプレックスにあったのは意外でした。てっきり麗峰に想いを寄せていて雪緒に彼を奪われたからだろうと思っていたので。
ところが永華の麗峰への想いは恋ではなくて、純粋な崇拝でした。
今でこそ麗峰の片腕的存在の永華ですが、女性的な容姿のためにもともとは麗峰を慰めるために送り込まれたという過去があります。
親からさえも「女だったらどんなに良かったか」といわれて育った永華は、男でありながら男として求められない、認められないことを何よりも悔しく思っていて、麗峰はそんな永華の思いを汲んで彼を愛妾としてではなく秘書として側においたんですね。永華が麗峰に深く忠誠を誓っている理由が伺えます。
そんな永華にとって男に女のように扱われることはなによりの屈辱で、それを受け入れているからこそ雪緒を軽蔑していたという。

そんな永華を紗一は決して女扱いしていのではなく、「男」としての永華に惚れていたということが明らかになってきて、それに永華が気がつき紗一への眼差しが変わっていきます。
永華が長年苦しんできたことをあっさり切って捨ててしまえるほど豪胆で奔放な紗一が、頑なな永華を解放していく、というのがよかったですね。

ただ、お話の前半で永華が女扱いされることへの嫌悪を何度も何度も繰り返しているのが鬱陶しい。地文で説明したあと同じ内容の永華の心の声が括弧内で繰り返されたりされると、読んでいてうんざりしてきます。主人公のマイナス思考をしつこく買いちゃうのは、もしかしてあさひさんの悪い癖かもです。。
後半はそれがさっぱりなくなった分読みやすかったです。
でも、紗一が永華を拉致したのは彼が欲しかったという理由のほかに実はもうひとつあるんですが、それがインパクトに欠けているので盛り上がりも欠けていたかも。そして、終盤に向かうに従ってドタバタとしてしまっているのがなんだかもったいなかったです。
もうちょっと黒社会っぽいハードさがあってもよかったような。。

しかし、素肌にジャケットを羽織っている雪緒ってどうなんだろ。。このキャラ、どうも個人的にツボから外れてばかりだなぁ…。

「帝王と淫虐の花」

「帝王と淫虐の花」 あさひ木葉 / ill.朝南かつみ

艶やかな美貌の朱雀雪緒は、弱冠29歳にして東亜系と呼ばれる組織で一つの組を統べる極道。ある日、香港黒社会に君臨する李麗峰を殺せとの命が下り、雪緒の心は揺れる。なぜなら、麗峰は密かに想い続けていた男だったからだ。12年前―組長の性奴だった雪緒は、取引の道具として李家に一時期預けられた。当然、慰みものになると思っていたが、麗峰との閨事は甘く、彼は雪緒が望む知識も教授してくれた。生きる拠としてきた男を殺すか否か、迷いを抱えたまま雪緒は香港に向かうが…。

先日に続いて、ずっと積んだままだったあさひさん作品を読んでみました。
…が、とことん合わないお話でした…。

親の借金が原因で、たった17歳でヤクザの性奴に身を堕とした雪緒(受)は、全てを諦めて人形のように組長ら男たちの相手をしていましたが、ある時、香港マフィアの実力者・麗峰(攻)に友好の証として貸し出されることになります。
麗峰は若いながらも支配者の風格を持つ美丈夫で、雪緒を気に入ってその境遇から這い上がる手助けをくれ、性奴に堕ちてから初めて人間扱いしてくれた彼に雪緒は憧れ以上の感情を抱いてしまう。
貸し出し期間の3ヶ月を終え日本へ帰国した雪緒は、その後体と頭を使っのし上がっていき、29歳になった今では小さな組を持つまでになります。
ところが、違法カジノをめぐって組と麗峰たちとが対立するようになり、麗峰と面識のある雪緒に麗峰暗殺の命令が舞い込み、雪緒は交渉役に扮して再び麗峰に会うことになりますが…。

受けが借金のカタに〜という設定はBLではありがちなものですが、なぜか香港に高飛びしているのが異色ですかね。
でも、黒社会を舞台にしていながらもほぼ内に籠もった内容なので、それっぽさはあまりないです。
というか、イラストも含めて登場人物の浮世離れしている容姿(特に麗峰)のせいで、現代ものっぽさもあまり感じられなかったかも。受け攻め両方の髪が長いってどうなんですか;
麗峰は、マフィアのトップだしまぁいいかと思えても、雪緒のように性奴時代がトラウマになっているタイプは、ただでさえ女っぽく見えるのを避けて髪なんかばっさり切ってしまうんじゃないかと思うんですけれど。。
なんですかねー、作家さんの好みなのか?
個人的にはまずこれが萎えポイントその1。
その2は、雪緒が初めて麗峰の相手をした時に、「らめぇ…(だめぇ…)」とか舌足らずな調子で喘いだりおねだりし始めたこと;一気に萎えました。こういうのがいちばんダメかもしれない…。
雪緒はそれまでにさんざん調教されてそうなってしまったという設定で、その後あられもない卑語をわめかれる相手には燃えない麗峰によって躾け直されるんですが(笑)、麗峰グッジョブ! と思ってしまいましたよ、ほんと。

それらでテンション上がらないまま読み進め、ことあるごとに雪緒が性奴だった頃のことを悔いたり恥じたりしている心情が書かれているので、うん、もうわかったよ…と、またしてもうんざりしてしまいました。雪緒、ネガティブすぎますね…。
仮にもヤクザのトップに並んだのなら、そんなこと何でもないくらいの気概を見せてほしかったです。
そんな雪緒に、麗峰があそこまで執着するほどの魅力があるのかも疑問でした。そして典型的なスーパー攻め・麗峰にも、あまり魅力が感じられないし…。
プレイ的には調教やら視姦されながらやらといろいろあるんですが、キャラがどうにも苦手なせいでいまいち萌えませんでした。

終盤、ちょっと意外な展開になったのは面白かったです。
けれども、組員たちを捨てられないと何度も繰り返していたくせに結局麗峰のもとに留まる雪緒の姿には、どうしても釈然としないものを覚えてしまいます。
BLらしいといえばらしいですが、ちょっとねぇ…。

そんなわけで、見事に合わないお話でした。ここまでダメなお話は、BLでは初めてだったかも。すがに途中で読むのを止めはしませんでしたが、合わないお話って読み進めるのに気力が要りますね(苦笑)。
お話だけならぶっちゃけ★1つですが、153Pの朝南かつみさんによるチャイナ服姿の雪緒のイラストがとてもよかったので、+★1つ(笑)。
チャイナ服っていうか女装ものは全然興味がないですが、エロいシーンではないのにはだけたチャイナ服とそこから覗くほっそりしながらも男の骨格を持った雪緒の体の対比がすごくセクシーで、たまらなかったです。一見の価値ありですよ! このチャイナ服が見られただけで良しとします(笑)。
スピンオフではお気に入りの麗峰の側近・永華が主役なので(これも積んでる;)、そちらも近々読んでみます。

「忘れないでいてくれ」 夜光花 / ill.朝南かつみ

他人の記憶を覗き、消す能力を持つ清廉な美貌の守屋清涼。見た目に反して豪放磊落な性格の清涼は、その能力を活かして生計を立てていた。そんなある日、ヤクザのような目つきの鋭い秦野という刑事が突然現れる。清涼は重要な事件を目撃した女性の記憶を消したと詰られ脅されるが、仕返しに秦野の記憶を覗き、彼のトラウマを指摘してしまう。しかし、逆に激昂した秦野は、清涼を無理矢理押し倒し、蹂躙してきて―。

もうじき花吹雪先輩編が出るので、久々に読み返してしまいました。
夜光さん作品ではダントツに好きなお話です^^

人に触れることで相手の記憶を覗くことができ、更にその内容を書き換えるという不思議な能力のある清涼(受)は、その力を使って怪しいクリニックを経営しています。
ある時、清涼は偶然自分の受け付けた男が強姦の常習犯であることを知ってしまい、セラピーと見せかけて破滅させてやろうと企み実行するのですが、男を追っていた刑事の秦野(攻)がことの成り行きに不審を覚え、清涼のもとへとやって来て詰ります。
それに苛立ちを覚えた清涼は腹いせに秦野の心を覗き込み、そこに潜んでいた過去のトラウマを曝しますが、逆上した秦野に犯されてしまい…。

最初は無理矢理な関係からスタートするお話ですが、漫画チックな受けの能力と清涼と秦野のキャラが絶妙にマッチしたとても面白いお話です。
こういう特殊能力モノで事件絡みのお話って、ラブ面よりもそっちの方に重点が行きがちでBLとしては物足りないものがよくありますが、これはキャラの魅力も相まってその辺りのバランスが絶妙(エロも含めて・笑)でした。

清涼みたいな能力持ちってミステリアスなキャラが多いと思うんですが、清涼は何だかふてぶてしい(笑)。
秦野に無理矢理やられてしまうも、彼をを煽った清涼の性格がそもそもの原因のような気がして、あまり気の毒に思えません(笑)。からっとした性格なので、その後引きずることもないのがいいです。
このお話は、もう何よりそんな彼のキャラにヤラれましたね!
そして最初は傲慢な奴なのかと思った秦野も、刑事をやっているだけに清涼よりはるかに常識人で、その後清涼のもとに花を持って頭を下げに来きたり(笑・男相手にやることなのかそれはw)面と向かって「好きだ」と言い出せなかったりと、実はヘタレな面のあることも判明してなんだか可愛い印象になっていきます。
彼らは始まりは最悪でしたが、何だかんだと馬が合い、徐々に気の置けない存在に、そして恋人同士になっていくわけですが、そこに至るまでのやり取りが漫才みたいでかなり可笑しいです。
いちばんツボにキたのは、ふたりが付き合ってる付き合ってないの言い出すあのシーン(笑)。BLでこんなに可笑しい告白シーンがあっただろうか…(笑)。

清涼の過去とともに、実はその能力が彼が抱えていた過去に起因していたことが判明するあたりからスリリングな展開になって目が離せなくなります。
悪人は「目には目を」で裁こうとする清涼なりのやり方と、刑事として悪は法のもとで裁かれるべきだという秦野の主張との対比も興味深かったです。
図太そうに見えながらも武装することでしか自分を守れなかった清涼が、自分と同じように子供の頃のトラウマを抱えながらもそれを自分の一部として受け入れている秦野の強さに惹かれた、というのも、ノンケが男を好きになる理由としてとても自然な流れだなと思いました。自分の想いを素直に受け入れるに、もの凄く時間がかっているのが清涼らしいですが(笑)。
けっこう重いものも含んでいるお話ですが、清涼と秦野のおかしな掛け合いが最期まで健在なこともあって、暗い印象にはなっておらず読みやすいのがまたいいですね。

清涼と秦野以外にも、清涼の友人で良き理解者なんだけどとってもうさん臭い塚本や、その彼女で怪しさでは更に上を行っている黒薔薇さん(お気に入りはベットの下ってww)などなどかなりインパクトのあるキャラがお話を盛り上げてくれています(笑)。
朝南かつみさんのイラストも素晴らしくて、キャラがそれぞれに魅力的なのはイラスト効果も大きいです。
そしてお話には登場しなかったけれども、ある意味清涼の恩人でもある花吹雪先輩が気になって仕方がない! スピンオフ読めるのが待ち遠しいです〜

「駆け引きは紳士の嗜み」 榊花月/ ill.朝南かつみ

ゆっくりときみを攻め堕とす―。倒産寸前のアパレルブランドで、プレスを務める波尾の前に現れた野津は、経済界に君臨する敏腕エコノミストだ。そんな彼に初めて会った時から異様に執着され、執拗な視線を受ける波尾は、その居心地の悪さから必要以上に野津と対立してしまう。ところが、次々に新風を巻き起こして経営を立て直していくエリート然とした野津の姿に、波尾はどうしようもなく惹かれていって…。

敏腕エコノミスト×アパレルメーカーの広報員のアパレル業界もの。それらしく華やかでにぎやかな内容で、いつもよりカジュアルな雰囲気の朝南さんのイラストがお話に花を添えています。

波尾(受)は倒産寸前のアパレルメーカーのプレスをしていますが、ついに会社更生法を適用されてしまうことに。
経営の立て直しのために敏腕エコノミストの野津(攻)が新たなOECに就任しますが、波尾は始め、傲岸不遜な彼に反発を覚えます。けれども何故かよく絡まれて、そんな中で次第に彼が自分たち若手の意見を汲む経営方針を打ちたてようとしていることがわかり、親近感を覚えるようになっていきます。

波尾やその同僚のデザイナーやパタンナーや営業くんが会社再生のために奮闘したり、それまでの経営陣と意見を闘わせたりと、お仕事BLとしてはけっこう面白い内容です。同僚キャラは、みんないい味出しています。
波尾のいとこが世界で活躍するモデルだったりとアパレル業界っぽく華やかなところもありますが、基本はその華やかさの裏方がメインなので、ちゃんと地に足が着いていて浮ついた感じじゃないのがいいです。

でも、登場人物やお仕事パートは素敵なのに、その後ふたりの感情が恋に発展してしまう展開が急というか、あまり必要性を感じられないのが惜しいですね。ふたりの過去に意外な接点があったことが最大のポイントになっていますが、それだけではちょっとすとんと理解できなかったです。
最初の方から野津が波尾に押したり引いたり(笑)気があるのが見え見えな上、最後には実はストーカー一歩手前だったことが発覚したり(!)と、かなり面白い要素があるのに残念な。。
全体的に、もっとページがあってもよかった内容でした。

「この世の楽園」 綺月 陣 / ill.朝南かつみ

桂城バンク勤務の蔵野悠介はある日突然、グループ総裁子息・聖也の「教育係」に任命される。大学生の聖也は純粋で美しい青年だが、あまりに高慢だった。これまで冷静沈着を貫いてきた悠介も一筋縄ではいかない聖也に手を焼き、その境遇に耐え切れず苦手な弟・賢司にこの仕事を押し付けようと助けを求めた。しかし自由奔放な賢司はそれを楽しんで受け入れ、悠介の神経を逆撫でする。結局、兄弟で聖也の「教育」をすることになったのだが、聖也を手懐ける賢司に嫉姑した悠介は…。

初の綺月作品です(笑)。兄弟もの+3Pってさすがハードで有名な作家さんなだけはある…と思ったら、あとがきでどちらもこれが初と書かれていたのが意外でした。それ以外でも色んな意味で裏切られた愉しい一冊でした。

冷静沈着な性格の悠介は、ある日亡き祖父が残した借金が元で勤め先の総裁子息・聖也の教育係になることに。ところが聖也は本社ビルの最上部にある自宅からは出たこともないような世間知らずで高慢な性格で、悠介を「奴隷」扱いします。これにはさすがの悠介も音を上げて、弟の賢司に片棒を担いでもらうことを思い付きます。

賢司は悠介とは真逆の定職にも就いていない自由人で、でも要領がいいというか堅実な悠介よりも人に親しまれやすいタイプ。悠介はかつてこの弟に彼女を寝取られたことがあって、以来連絡もしていないような関係です。なのに賢司は悠介になついている様子で、悠介の唐突の要請にもふたつ返事でやってくる。
これで荷が減るかと思った悠介でしたが、今度は別の苦悶が待ち受けていました。なんと、あれほど自分ではお手上げだった聖也が、賢司相手にはたった一日で心を開くようになるんです。それを目の当たりにして、悠介はまた賢司にいいところを持って行かれたのだと思う。
悠介は賢司に対して侮蔑の感情と同等に、いやそれ以上にコンプレックスをずっと抱いているんですね。
で、そのために賢司におかしな闘争心を燃やして、何故か聖也の気をこちらに引きたいと思うようになる。
その後、賢司の発案で聖也をキャンプに連れ出すことになるのですが、そこで3人の関係がどんどんおかしな方にねじれてしまうことになります。

お話は終始悠介の視点で進むのですが、彼の冷静にやってるつもりがおたおたしている様子が伝わってきて面白いです。そしてそれぞれにタイプの違う3人のキャラがいいです。
ただ、3人の関係は設定ありきという感じがしてそこが惜しいところ。
特に悠介が聖也に特別な思いを抱くようになるきっかけが弱いのが気になりました。
賢司に対するライバル心と、外の世界に連れ出したことで徐々に純粋な子供のように何でも吸収しようと変わっていった聖也を可愛く思うようになったというのが最大の理由のようなのですが、ちょっと取って付けたような…。
変わって、賢司の悠介に対する感情がヨコシマなものだということは早い段階でわかりました(笑)。そんなこと露も知らなかった悠介が最後の最後で賢司を受け入れるのは、だいぶ唐突な気がしたというかなんでそこで納得できるんだ! と突っ込んでしまいましたが。。

…そう、このお話はラストの3Pのためにあるようなお話なのです。
3Pと言っても、攻めふたりが受けを愛でるお決まりのパターンではなくて、賢司と聖也が悠介を挟み合うというサンドイッチ3Pです…! さすが綺月さん、そうきたかという感じ(笑)。というのも悠介が、攻めなのか受けなのかぎりぎりまで判断できなかったから、あ、そーいうことなのかと(笑)。
エロで有名な綺月さんですが、この作品では本番行為はこのラストの3Pのみ(そこに至るまでにいろいろ際どいことになってはいますが・笑)で、賢司×聖也のシーンはありません。
この先、この三人のポジションはこのままなのか、それとも賢司が受け二人を調教していくのかが気になるところです(笑)。
…でもこの3人の中でいちばん受け属性なのは実は悠介な気がします(笑)

兄弟モノの上に3Pモノという、何だかいいとこ取りな印象がしなくもない作品ですが、3人のためなのか賢司があまり粘着質な執着心の持ち主でないためなのが、兄弟モノ特有のドロドロした背徳感は不思議とないのでそういうのが苦手な私は愉しめました。逆に、背徳感たっぷりの兄弟モノを求める方には物足りないんじゃないのかなぁと。そのあたりは、好みの問題ですね(笑)。

それからこの作品が愉しく読めたのは、朝南かつみさんのイラスト効果もかなり大きかったです。
悠介、賢司、聖也の3人ともがイメージにぴったりでともて魅力的だし、色っぽいシーンはとてもセクシー(笑)。
そして何よりカバーイラストです。またしても朝南さんにやられてしまいました…! ハードな首輪にどきりとしますが、その首輪が3人の関係性を見事に描き出しているではないですか! 朝南さん、さり気なく作品の核心を描くのが上手すぎます。作品のモチーフを散りばめた絵を描く方といえば奈良千春さんが思い付きますが、こんなふうにサラリと描ける方は朝南さん以外にいないと思います。…って、私の浅いBL歴の中でということなのですが;;
改めて朝南さんの凄さを実感した一冊でもありました。

「よくある話。」 中原一也 / ill.朝南かつみ

冴えない中年オヤジの袴田俊樹は突然、元AV女優の妻に離婚を迫られる。その夜、バーで泥酔した袴田は、気づくと同じ会社の出世頭・池田優作と全裸で同衾していた。一夜の過ちで、モテる池田が自分に興味を持つわけがないと思っていたが「課長の色気にやられました」と熱烈に口説かれる。全く理解できないまま、押しが強くAVが大好きだという池田に流され、様々なプレイを楽しむ仲に。だが偶然、池田が袴田の別れた妻のファンだと知ってしまい―。

中原さんのオヤジ受けもの。というか、これが中原さん初のオヤジ受けものだったんですね(笑)
朝南かつみさんのいつもとちょっと違うコミカルテイストなイラストもとっても素敵でした。

36歳にしてもう枯れたじいさんみたいな袴田(受)は、元AV女優だった妻から離婚を言い渡されます。
その原因が何と妻の偽造妊娠に気が付かなかった(!)ためというのがすごいんですが、10ヶ月以上たってもお腹の大きくならない妻を不思議がりもしない袴田という男は、天然というよりは単純に何事にも(妻の妊娠にも!)関心の薄い男なんだな、と思わせます。
その袴田もさすがに離婚してしまった事実にはこたえたのかその夜は飲もうとあるバーに入るんですが、そこで会社の後輩で将来性もあるいいい男・池田(攻)と偶然会って泥酔してしまうまで一緒に飲み、なんと池田と全裸で同衾している状態で翌朝を迎えてしまう。

入社当時から袴田に恋をしていたという池田は、その後も熱心に袴田を口説きまくります。
彼は女性が放っておかないいい男なのに、年上に弱くてそういうシチュのAVが大好きなだいぶ変わったシュミの持ち主。
その押しの強さに覇気がなく流されがちな袴田はいつも巻き込まれて、気が付いたら正式に付き合っているわけでもないのにAVをネタにしたマニアックなプレイを重ねているというおかしな関係になってしまう。

そしてある日、池田が袴田の元妻の熱烈なファンだったことが発覚して、何事が起きても昼行灯の袴田の心が奇妙に揺れるようになる。
もしかして池田は自分の元妻が大好きなAV女優だから近付いてきたのではないのか、とか、ありもしないことに悶々とし始めて、それが元妻への嫉妬なのだと気が付き池田への想いに気が付くんですが、これまでなにがあっても「ま、いっか」と淡白な反応しか見せなかった袴田が、おそらく人生で初めての恋に戸惑って感情的になってしまうところが良かったです。
たぶん袴田は感情を剥き出しにすることは醜いこと、と思って自分の中でリミッターをかけていたんでしょう。元同級生の女性たちに対する態度からも察せられます。
でも、どれだけ無関心に生きてみようとしたって何が起こるのかわからないのが人生、ですね(笑)
現在の袴田が「オヤジ」なのではなく、彼が特別隠居した老人みたいに生きていただけだと思います。彼なら若いころもこんな感じだったんだろうなーという感じ。

ただ、袴田にしろ池田にしろ互いに何故惹かれ合ったのかがちょっと説明不足です。特に池田は本当にどうして?? という感が拭えない。かっこいいくせにマニアックで大型わんこみたいな彼のキャラは大好きなのですが(笑)
それからふたりとも若すぎます(笑)。個人的にはプラス10歳くらいでもOKなお話でした。だって世間一般で36歳はまだオヤジの域ではないですよ;プラス10は無理でもせめてプラス5歳くらいの設定にしてほしかったお話です。
とはいえ、これが刊行された当時はそもそもがオヤジ受けというのが冒険だったのだろうし、これが限界ぎりぎりだったのでしょうね。今では40オヤジ受けもフツーに見られるようになって、この数年でBLのタブーもだいぶ変化しているのかなとしみじみ思ってしまいました。そして、この先どこへ向うのだろうかと…;そのうち一周して原点回帰とかになりそうですね(笑)

「凍える月影」 いとう由貴 / ill.朝南かつみ

縹国に使いとしてやってきた僧侶の月永は、世俗を離れた身でありながら、その美貌ゆえ国主・義康の寵愛を受けるようになる。だがそれこそが月永の謀略であった。月永は家族の仇を討つため、何も知らずに正道を歩む異母兄―義康を穢そうと身体を開いたのだ。義康を禁忌の関係に堕とし、国を滅するべく罠を仕掛けていく月永。だがそれは義康の中に眠る獣を目覚めさせてしまい…。

朝南かつみさんの色気滴る坊主のイラストが素晴らしい、戦国時代の仇討ち+兄弟もの。

僧侶の月永(受)は縹国の領主の子なのですが、母が領主の正妻に疎まれて一族ごと皆殺しにされひとり生き残った過去を持ちます。
そして仇討ちのために素性を明かさぬまま縹国に入り、自分の全てを奪った正妻と、今は亡き父に代わって領主になっている異母兄の義康(攻)に近付きます。義康は月永を一目見るなりその美しさに心奪われ、月永が実の弟だとは知らぬまま寵愛するようになる。月永はこの何も知らずに育った兄を自分と同じ地獄に引きずり落としてやろうと体を使って篭絡し、その裏で策略を巡らしていきますが、そうしているうち月永への想いが元で義康の中に潜んでいた獣性が目覚め始めてしまう。

月永が奸計を張り巡らして義康や正妻や重臣たちを篭絡していくさまは中々読み応えがあります。知略に富むしたたかな美しい僧、というのがもう凄いツボです(笑)。まさか坊主がこんなに色っぽく見えようとは、ですよ(笑)。
で、腹の中では色々企んでいるのに義康を堕とすために彼の前ではひたすら儚く美しい僧を装うっていうのがまた(笑)。こういうシチュ、何だか萌えます…!
でも、色々やって国をひっくり返そうとした手前で、人のいい繰りやすい存在だった義康が月永を大切に思うあまり支配者としての顔を覗かせるようになりその内に潜む獣性をも呼び覚ましてしまうという皮肉な結果になったのは、月永の大誤算でしたね。
そして自分もいつの間にか義康によって与えられる快楽を求めるようになってしまっている。異母兄弟で禁忌を犯し、兄を地獄に落とすはずが…な、まさかの展開です。色んな意味で、義康の方が月永を上回っていたという。
真の仇というべき正妻に報いたのは良かったとしても、これは月永も予想していなかったでしょう。

本音を言えば月永には最後の最後までしたたかであってほしかったので、仇討ものとしては中途半端だった気がします。もっと徹底的に…! ってそれじゃあ悲劇がほぼ確定だから無理なんでしょうが(汗)、前半の冴え冴えとした月永が好きだったので、どうしても後半に物足りないものを感じてしまいました。
代わってこのお話に濃厚に流れてくるのが、兄弟ものとしての狂気をはらんだ背徳感。時代ものであるため更にねっとりしている気がしました。
実は兄弟ものってあんまり得意じゃないんですが(汗)、この作品は時代もののためなのかしっとりした雰囲気によく合っていてすんなりと読めました。
そして、朝南さんのイラストが素晴らしいー!
これ、坊主萌えの極地ですよほんと…! このイラストのために萌え率が3割は増したと思います。

「つる草の封淫」 沙野風結子 / ill.朝南かつみ

権力者の影武者となる「珠」として造られた葛は、本体の月室藩主の子息・藤爾に代わり、幼い頃より慕う上忍の珀とともに緋垣藩に人質として赴く。藩主の嫡男である緋垣彬匡は、周囲の者に禍を撒くと噂され、恐れられていた。諜 報活動を行う葛は体液から情報を読み取る特殊能力がうまく使えず、焦りを覚える一方、不幸をもたらす己を呪う彬匡の孤独に触れ、惹かれ始めるが……。

江戸時代が舞台の忍者の三角関係もの。時代ものの上にかなりな特殊設定だし、と思って手に取るのを躊躇っていたらもったいないくらい切ないお話です。

月村藩の子息・藤爾の影武者「珠」として伊賀の忍びによって作られた葛(受)は、藤爾の身代わりとして、慕っている上忍の珀とともに緋垣藩へ人質として赴くことになります。
緋垣で二人を待っていたのは、周りから「物狂い」と囁かれるほど常軌を逸した行動をとっている嫡男の彬匡(攻)。藤爾が人質同然で緋垣に来ることになったのも、もとは彼の蛮行から起きたことでした。
生贄同然の藤爾、というか葛を彬匡はいたぶりぬきますが、やがて葛たちは城内で囁かれる彬匡は周囲に禍を撒くという噂を耳にします。その真意を図ろうと、葛は「珠」の能力である相手の体液から心を読もうと試みますが、何故か彬匡の心を読むことができない。もしや自分は欠陥品なのではないかと、珀から見放されることを恐れてそのことを言い出せず、師以上の想いを抱く珀からはあらぬ誤解をされてなんとかせねばとあせる葛が切ない。

「珠」というのは人間ではなくて、忍びによって作られた存在。いわば本体となる人物(権力者が主)の分身のようなものですが、珠は珠本体としての感情も記憶も持つ、極めて人間に近い存在です。
この作品の面白いところは、葛が単なる「影武者」ではなく人間ではない作られた存在であるというところだと思います。人間でないからこそ、葛は身の置き場のない思いに終始囚われている。所詮は作られた道具でしかないという思いが葛の中にはずっとあるんですね。
恋い慕う珀からは閨房術も教え込まれていますが、珀は葛と決して一線を越えようとしない。それは、自分が道具でしかないからなのだと思ってしまう。はっきりとした心や感情を持つだけに、葛はとても孤独です。
一方、自分に近づく者に禍をもたらしてしまうことで誰も自分に近付けさせられないでいる彬匡もまた、とてつもない孤独の中にある。誰もを邪険に扱ううちに誰もが離れていく、という悪循環の中でひとりぼっちなんですね。
置かれた状況は違えどふたりがお互いに似た孤独の中にあることに気が付いて近づいて行くのですが、その過程がすごく好きです。
彬匡はさんざん葛に酷いことをするんですが、葛の真っ直ぐな性格が彼を救っていく。でも、彬匡にとって葛は「藤爾」なんですよ。せっかく孤独を癒せる相手に出会えたのに、今度は自分は身を偽っているという思いに苛まれてしまう。葛が彬匡への恋心をはっきりと悟る場面はもう切なすぎて泣いてしまいました。
そんなふたりの切ない恋模様と彬匡の撒く「禍」の謎とが絡まりながら進む後半、そこに更に切なさを加えているのが珀の葛への想いです。彼は葛を想っているけれども彼の事情で踏み止まっている、というある意味拷問に状況にあって、そこに気が付いてから改めて読み返してみると珀が不憫で…。
この三角関係は切なすぎますねー。

ラヴ方面だけではなく、お話自体も時代もの・特殊設定ものならではの目が離せない面白さで読ませてくれます。最後の最後まできっちり描かれてラストはちゃんと収束されていて、350ページ近いボリュームもあっという間の内容でした。
特殊設定なので所々グロテスクというかホラーに近い描写もあって読む人を選ぶかもしれませんが、個人的にはそれはお話の雰囲気を盛り上げている欠かせない部分だと思いました。

そして安直に3Pオチにはせずにあくまで三角関係にしているのがいい、というか萌えました。3人でのかなりハードなシーンもあるんですけれど(でも珀は最後まで葛と一線を超えません)、葛を挟んで彬匡と珀が嫉妬をたぎらせて葛をいじめてしまう、というフツーの(?)3Pものよりもよほどねっとりとやらしい感じです。
この他沙野さんらしく蛇を使った獣姦ぽいプレイや触手っぽいプレイなどエロ方面はハードです。個人的には、相手の体液から心を読むという葛の能力がツボでした。だってこれもうエロのため以外の何でもないじゃないですか(笑)。もひとつ時代ものには欠かせない下帯(褌)にも興奮しまくり(笑)。沙野さんありがとうございます…!
すごーく切ないお話でしたが、この部分や3Pになだれ込んだシーンなどなど、沙野さん愉しんでるな、と思えるシーンがちらほらあるのも面白かったです。
そして、さすが沙野さんと思ったのは時代ものの雰囲気たっぷりな台詞回しや言葉選びです! 時代ものを扱ったBLは何作品か読んでいますが、ここを疎かにしているばかりに台無しなものがある中、これはしっかり時代ものな書き方をされていて、それがお話にしっとりした情緒と色気を添えていると思います。

タイトルに絡めたラストは秀逸で、もうどこを取っても素晴らしい、沙野さんの作品の中で最も好きな作品かもしれません。

掌中の珠を掠め取られてしまった珀のその後や何故か気になって仕方のなかった彬匡の側近の仙之助のこととか、続きを読みたい! と思わずにいられないのですが、…イラストを担当されていた朝南かつみさんが亡くなられてしまった今、すっかりイメージが固まっていたこの作品はどうなるのだろうかという思いでいっぱいです。
あとがきに、続編の予定は2012年頃とあるのがやるせない…。
この作品は、朝南さんのカバーイラストに惹かれて手に取った作品でした。そしてそれを機にBLにどんどんはまってしまった、ある意味運命の一冊です。
カバーイラストは本当に素晴らしくて、読み終えてから眺めたらまた感動してしまいました。だって、彬匡の右目からは血が流れていて珀の左目は開いているんですよ。お話の「核」ともいう部分をさり気なく描き込んでいることに「凄い!」と思わずにいられませんでした。
そんな、イラスト込みで大好きな作品でしたので、まだ気持ちの整理がついていません。でも、いつか続きが読めればと思っています。

「月夜の子守唄」 清白ミユキ / ill.朝南かつみ

幼少時に伝説ともいわれる盗賊に両親を殺された、元武家の子である葉山市之介は、仇を討つため、その盗賊を追っていた。久しぶりに江戸に戻ってきた市之介だったが、町で火事に遭遇してしまう。不審な火事が、追っている盗賊の仕業ではないかと疑いを持った市之介は、翌日現場で盗賊の痕跡を発見する。しかし、そこで鉢合わせた将軍直轄の若き長・後藤数馬に疑われ、拘束されてしまい…。

将軍直属組織の長×親の仇を追う浪人の江戸時代ものです。時代ものならではの魅力に溢れた面白さでした!そして、朝南かつみさんの色香漂うイラストが本っ当に素敵です。

両親を殺した盗賊を10年追っている武士の息子・市之介(受)は、仇を追って生まれ故郷の江戸に戻ります。が、追跡の途中に同様に盗賊を追っている幕府直属の組織・機動衆の長・数馬(攻)に目を付けられ、打ち合いの果てに捕らわれてしまう。
機動衆というのは架空の組織で、時代劇でお馴染みの火付盗賊改方がより強力になった感じでしょうか。若くしてその長となっただけあって、数馬は腕のたつ冷酷そうな男です。
そんな数馬に、長い浪人暮らしで役人に対して不審感を持つ市之介は決して口を割らず、その頑なな態度が数馬を怒らせてしまうのですが、…実はそれは冷酷な性格ゆえではなくて市之介に一目惚れしてしまったために出た行動だったという意外な展開です(笑)。

その後市之介への誤解は解けて彼らは共に盗賊を追うようになるのですが、市之介があまりに色恋沙汰に鈍すぎるために数馬の想いに全く気が付かないんですね。
自分の美麗な容姿が他人に与える影響とかにもまるで気が付いていないし、市之介とその幼馴染みとの間柄に嫉妬している数馬に実は数馬と幼馴染みが恋仲だったのではととんだ勘違いまでした時には、もう数馬が憐れになりました(笑)。そこまできてどれだけ鈍いんだよーと(笑)。
市之介、実は生真面目で不器用で純な男を翻弄する天然誘い受け? 罪作りな男ですね。
この作品、鈍い市之介と強面かと思いきや純な数馬というキャラの意外性に萌えました。
そんな、自分が想われているとは露ほども思っていない市之介と一途な数馬のすれ違いに、笑いながらも終始じれじれ。そこに市之介の武士としての矜持を守ろうとする葛藤が入り交じるあたり、現代物にはない時代ものならではの味わいですね。剣の腕がたつというだけではなく、市之介は男前です。
仇討ちの顛末はわりとあっさりしていますが、これはBLなのでそれでいいと思いました。時代ものとしての正確さに関しても同様で、それでも時代ものとしての萌えツボはしっかり押さえてあるのでとても愉しめました。
そしてここのところ現代ものばかり読んでいたためなのかとても新鮮。暫く時代ものBLを読もうかと思ってしまったほどです(笑・いやたぶん増えると思う)。

そして詠み終えてから再び口絵を見て、微笑んでしまいました。
これ、本編にはない場面なんですよね。でもこのふたりの間柄や性格が出ていて、如何にも「ありそうな」一枚です。で、その後は清水さんのあとがきの、数馬が意地で食べないバージョンの方かな?(笑)
この他、着物の着流しとかそこから覗く肌とか、作品に更なる色っぽさを添えています。

ところでBLにきっちり月代をそった侍が出てくるものが見当たらないのは、やっぱり絵的にNGだからなんでしょうね。でもこの作品を読んでいてつくづく思ったんですが、それを理由に避けておくには惜しいんじゃないかと。絵ではなく文章で魅せる小説では、ぜひぜひもっと増えて欲しいですね。で、武士×お稚児さんとかじゃなくて、もういっそ攻めのみならず受けもちょんまげ! …なのをいつか読んでみたいです!

「ワイルド&セクシー」 高岡ミズミ / ill.朝南かつみ

二十八歳になる一宮悠介は、これまでいい恋愛をしてこなかった。だから、今度恋愛をするなら長く付き合える相手がいい、ずっとそう思っていた。そんなある夜、傲慢なまでに自信にあふれた男、湯川と出会う。二度と会いたくない、そう思わせるほど第一印象は最悪だった。それなのに気がつくと一宮は湯川のものになっていた。「俺と寝ながら、他の奴とも寝るなよ」好きとも愛してるとも言わないくせに、湯川は独占欲を見せる。しかし、湯川には人には言えない秘密があるようで・・・。甘え方がわからない猫と、不遜な男の恋が始まる!!

傲岸不遜で謎めいた男と孤独なバーのオーナーのお話。
とっても面白かったです。

バーを経営している一宮(受)は、天涯孤独で甘え下手な性格。彼はゲイで、その美貌に言い寄ってくる男も多くいるのですが、男を見る目のなかったこれまでの経験から恋愛事からは遠ざかった生活をしています。
ある時一宮は、湯川(攻)と名乗る傲慢で謎めいた男と出会います。湯川は男の色香を放ち人目を引きますが、ゲイを蔑視する発言を平気で吐くようなデリカシーを欠いた男。一宮は若いころならきっと惹かれただろうけれども、今の自分は関わりたくない男だと思う。
けれども何故か湯川の方から一宮に近付いてきて、一線を超えてしまう。
一宮は湯川の行為が恋愛感情からくるものなのか確証が持てず、もやもやした思いを抱えますが…。

この作品のキモたる湯川の正体(ここでは敢えて書かずにおきます)、それが一宮に明かされないためにふたりともが色々思い違いをしてしまうんですね。タイミングが悪かったり悪い偶然が重なったりで誤解は重なるし、更にある事件が関わってきてふたりの関係をややこしくしていきます。
一宮も湯川も互いにひかれ合いながらも相手の本性を解っていないからさぐりさぐり…という状況で、読んでいる側には二人の状況がわかるものだから、すれ違いを重ねてしまうのにじれじれしてしまいました。事件の謎を追うミステリーというよりは、唐突に降ってきた恋に戸惑うふたりの心情を追う感じの作風です。
そしてページが進むに従って徐々に明かされていく事実や各地に配置されていた脇キャラたちの役回りにぐいぐい引き込まれて、ラストまで一気に読んでしまう面白さでした。

それにしても一宮が、たまたまそのポジションにいただけで裏でいいように利用されていたのは酷いですね。あの経歴でひねたところのひとつもないのはなかなか神だと思うのですが(笑)、だからこそ湯川は彼に惹かれたんでしょうね。
その湯川も、最初は一宮同様ヤな奴にしか思えなかったのに、実は一宮に一目惚れしていたとかキス魔だったりとか徐々に意外な面が出てきたのが良かったですね。
ツンとしているようで実は甘え方の分からない寂しがり屋な一宮には、湯川のような、ゲイでもないのに男にも手が出せてしまうような強引さのある男がぴったりなのでしょうね。とってもお似合いだと思いました。まぁ、ノンケの男がそんなにあっさり男相手にできるのかという疑問は残りますが;
兎にも角にも、キャラも魅力的で読み応えのある作品でした。

「捜査官は愛を語らない」 義月粧子 / ill.朝南かつみ

「その高いプライドをへし折ってやりたくなる」捜査局に配属された櫂が出会ったのは、ワイルドで飄々とした上司・久慈川。幼い頃から幸せには縁がなく、あまり人と接することがなかった櫂にとって、性的に奔放でセクハラ紛いの言動をとる久慈川の存在は驚きでしかなかった。だが彼のチームで共に事件を追ううち、捜査に対する真摯な姿を知り、久慈川を意識するようになる。この男に惹かれてはいけない―自分を抑えていた櫂は、ある夜久慈川に抱かれる淫らな夢を視てしまい…。

重大犯罪捜査局という警察とは別の架空の組織を舞台にしたお話でした。
捜査官の久慈川(攻)の元に、捜査局に入ってきた副局長・桜小路の弟、櫂(受)がやってきます。
櫂は、若いわりに腐乱死体を前にしても動じないほど場慣れしていて優秀だけれども表情に乏しい美青年。そんな彼の目に、男女を問わず性的にだらしのない自分とはまるでタイプの違う久慈川は最初戸惑いでしかありませんでしたが、彼が仕事には真剣に取り組む人間だと知り徐々に久慈川への感情が変わっていきます。それが上司への単純な憧れではなくて性的な意味での好意なのだと気が付いて、櫂は自分が久慈川に抱かれる夢を見てしまう。
そしてそれは、実は特殊な体質である櫂に変化を起こしてしまいます。
櫂は人の思念を読むことのできるいわゆるサイキックで、能力をコントロールできるようにしていたのですが、久慈川への想いが引き金となって、ふとしたきっかけで事件の被害者の思念を読んでしまう。
それが元で事件は解決に向かうんですが、極秘にされている櫂の能力のことなど何も知らない久慈川は、この唐突な展開に不審感を抱き始めます。
なのに仕事で出張した先で、久慈川は強引に櫂と関係を持ってしまう。
一途で健気な櫂に対して久慈川はその後も他の女と寝たりして、結局は手頃なセフレがほしかったのかというろくでなしぶりで、だいぶイライラしてしまいました。BLでも、ここまでだらしのない男も珍しい気がします。
そしてこんなどうしようもない男に櫂がなぜ惹かれたのかが説明不足で、いくら自分とは違うからといってあそこまで性的にだらしのないろくでなしを好きになれるのかなぁという疑問が終始残ってしまう。櫂の心理描写があまり書きこまれていないためにその感情が追いづらかったです。

そんな特殊能力者の櫂と、貞操概念のまるでない久慈川というややこしいふたりを主役に、事件が3つも起こったりするので、全体的にページが足りていない印象です。絡む事件はひとつに絞ったほうがまとまりが出たんじゃないのかな?? だってこれ、ふたりの恋だけでも納得のいくような収まり方をするのが大変なお話ですから。
そして最後の事件が完全な解決を見ないまま幕となってしまっているのが尻切れトンボな印象で残念。
あとがきによれば別レーベルからこの作品のスピンオフが出る予定らしいので、この事件はそちらで解決するということでしょうか? でも…、事件を追う者たちが主役のこのお話にこのラストはあまりに中途半端な気がして消化不良です。もう少し考えてほしかったかも。

そして。去る1月7日にご逝去された朝南かつみさんのイラストがどれも素晴らしすぎて涙が出てきました。口絵がエロすぎるのにもくらくら来ましたが、登場人物それぞれをしっかり押さえている挿し絵が素晴らしい。
櫂の兄・遙翔が主役になるというスピンオフ作品の相手役らしい人物も少しの登場なのにちゃんと描かれていて、それがまた素敵で、この絵で見られなくなってしまったことが本当に残念です。
いま現在この作品以降の刊行作で朝南さんイラストの作品は見付けられていませんが、これが最後の作品になるのでしょうかね…。
これのスピンオフも含め、もっともっと見たかったです。

「神に弄ばれた恋 〜Andalucia〜」 華藤えれな / ill.朝南かつみ

灼熱の太陽が輝くアンダルシア。伯爵令息アベルは幼い頃、自分を庇って左目を失った孤児サタナスを深く愛していた。身分差ゆえ話す事も許されなかったが、やがてサタナスは二人の恋を成就させる手段として、闘牛士となる。アベルが贈った衣装を纏い、闘うサタナスに観客は熱狂した。そんな時、没落し爵位を奪われたアベルを護るため、サタナスは殺人犯になり、アベルは彼を救おうとマフィアの愛人に身を堕とす。出所後、誤解したサタナスの黒い眸から愛は消え、獰猛な獣のようにアベルを辱めて―。

華藤さんの新刊はスペイン・アンダルシアが舞台の闘牛士×伯爵子息もの。闘牛に対するご本人の思い入れの詰まった一冊でした。そして、朝南かつみさんのイラストが光ってます! 登場人物の表情の見えないカバーイラストなんて見たことない気がしますよ。これ、なんだかものすごく妄想をかき立てられます…!

ジプシー出身の孤児サタナス(攻)と伯爵子息のアベル(受)は本来なら口をきくことも許されないほどの身分の差がありますが、境遇は違えど同じ孤独を抱えていることから想い合うようになります。やがてサタナスはアベルと対等な存在になろうと世界一の闘牛士を目指し、成長と共に闘牛士としての才能を開花させていくのですが、その一方で彼を懸命にサポートしてきたアベルは没落してしまう。
その中である殺人事件が起こり、サタナスは殺人犯として収監、世界一の闘牛士となる夢は絶たれたかと思いましたが。
何とアベルはマフィアの愛人となりその後継者にまで登りつめてサタナスを出所させてしまう。まるで天使のような少年だったアベルが段々したたかな男に成長して、サタナスのためにここまでしてしまう。
で、アベルはサタナスを己の専属の闘牛士にしようとするんですが、サタナスは復帰の条件として牛を殺すごとに彼を抱くという条件をつける。これはサタナスがアベルに愛想を尽かしたとか侮蔑するようになったためではなくて、自分のためにここまでしてしまったアベルを止めるため、そして今度こそ自分のものにするために出した条件なんですね。
状況は変わってしまっても昔と同じようにサタナスはアベルと共にいるために命を賭して闘牛士として生き、アベルはその身を堕としてまでサタナスを闘牛士として生かそうとしている。お互いが求めているもの、目指しているものは同じはずなのになかなか重ならないのがじれったくて切ないです。
そしてこのお話全体を覆う、かつて少年の頃のふたりにある占い師が告げた共にいると互いが互いに不幸をもたらすという不吉な予言の呪縛。それが現実にならないようにお互いがお互いを想いながらも、一緒にはなれないという読んでいる側にはとてももどかしい状況が続きます。

生死を賭けて行われる闘牛とサタナスという野性味溢れる闘牛士の魅力と相まって物語が展開していくさまはエロスすら感じられて読み応えがあったのに、そこにマフィアの抗争だのまさかの裏切りだのが入り込んでしまったせいで終盤はごちゃごちゃまとまりのない印象になってしまったのがあまりに残念。それらを詰め込むには明らかにページ数が不足していて、前半の濃厚で重厚な展開に対して終わりに近づくほど駆け足状態になってしまっている気がします。
それは抜きにして、闘牛のことのみを追ったほうがいろいろ納得できたような。。

サタナスとアベルはいつまでも素直にならず終盤はとんでもない事態にもなって、最後の最後の最後までこれはバッドエンドなのか? とひやひやしましたが、二転三転の末にちゃんとハッピーエンドに落ち着いて安心しました。もうほんと、バッドエンドだったらどうしようかと(笑)。
そして最後まで読み終えると、アベルがサタナスを助ける前半とサタナスがアベルを救う後半の二部構成の物語だったんだな、と気が付きました。
そして何より華藤さんご本人の闘牛に対する思い入れや現地での取材効果で、読んでいて闘牛をまるで知らない私にもその魅力というか魔力がひしひしと伝わってきました。舞台が外国で登場人物がみんな外国人なので取っ付きにくいかと思いきや、著者の丁寧な描写が異国に誘ってくれました。アンダルシアの埃っぽい大地を感じることのできる一冊です。

マタドールシリーズ
 ・「神に弄ばれた恋 〜Andalucia〜」
 ・「愛のマタドール」
 ・「裸のマタドール」

「積木の恋」 凪良ゆう / ill.朝南かつみ

 恵まれない生い立ちから恋愛詐欺師となった蓮は、恵まれすぎている男たちの金を巻き上げることに、なんの罪悪感もなかった。次のカモにと狙ったのは、総合病院の長男である医者の加賀谷。呆気なく騙され蓮に夢中になる加賀谷を、内心馬鹿にしていた。なのに―生真面目で真摯な愛情、穏やかな逢瀬。加賀谷と過ごす優しい時間に、知ることのなかった感情が湧き起こるが…。

凪良さんの新刊。
この作品は2007年秋の「小説花丸」に掲載された「恋愛詐欺師」を改題したものだそうで、後半にはお話のその後を描いた2作品が書き下ろされていました。
 
生まれ育った環境に恵まれなかった連(受)は、無いものは持てる者から奪ってしまえと男相手に恋愛詐欺師をやっている。彼が新たに目を着けたのは、総合病院院長の長男で医師の加賀谷(攻)。
偶然を装って近付いた加賀谷は地味で真面目な会話にも面白みのない男で、連に何の疑いも抱かず夢中になり思うままに金を差し出してきます。
簡単に自分の罠にかかったことに連はほくそ笑みつつも、金を渡した途端に「援助交際みたいなことはしたくない」と連を抱こうとしなくなったりと加賀谷は今まで騙した相手とはまるで違う反応を返して戸惑いを覚えます。加賀谷はあまりにも純粋で真面目で疑うことを知らない人間なものだから、そんな彼を騙していることに後暗いものを感じずにはいられなくなるんですね。それと自身が抱える劣等感とがないまぜになりながらぐるぐると罪悪感に悩み始める連の姿は切ないです。
そしてやがて自分が加賀谷に恋をしていることに気が付きますが、恋愛詐欺師であることが警察にバレてしまう。


詐欺で貯めたお金の使い道に「家が欲しかった」という連の言葉は悲しいですね。
この言葉には、家がただ「ある」だけではなくて、そこにはきっと連が得られることの出来なかった愛情のあふれた温かい家族がいる場所がほしいという想いもこもっていたんだと思うんです。その生まれながらに欠けていた部分があったなら、自分はちゃんと生きていけると思っていたんじゃないのかなぁと。
そう思うと連の孤独がはっきり胸に迫ってきて切なかったです。
けれども恵まれた環境に生まれ育ち穏やかで一見何の不足もないように見える加賀谷もまた、理解も愛情もない家族に育てられたために連と同じように温かなものを求めていて、このふたりは正反対のようで根っこのところでは似ているのかもしれません。

こんなふたりだから、その後共に暮らし始めてからもあまあまラブラブにはもちろんいきません。
ふたりで初めて迎えるクリスマスを前に、世間が浮き足立っている中彼らに波乱が訪れます。
なんと加賀谷の母親が姿を現して、息子に見合いをしろと言い出す。
これをきっかけにふたりの社会的な立場や考え方の違いとかいろんなことが表面化するんですが、それを正面から受け止めようとする加賀谷に対して連は面倒事には背を向けろと言わんばかりにすぐに逃げを打つ。それは彼の生い立ちや前科者であることが彼を臆病にして取らせてしまっている行動なんですが、そういうものから逃げていれば傷つかずにすむかもしれないけれども誰かと本当に理解し合えることもないわけで、加賀谷にはどうしても自分には真剣に向き合ってくれない、甘えてもくれないと物足りなさを覚えてしまうんですね。
そんな連の頑なさをそれでも加賀谷は急ぐことなくほぐしていって、このふたりを見ていると、小さなことを積木のようにひとつひとつ重ねながら関係を築いているんだな、と思いました。
タイトルを見たときはその逆の「崩していく」恋あるいはあとがきで凪良さんが触れているような「すぐに崩れる」恋なのかと思ったんですが、私はこれは「築いていく」恋のお話だ感じました。

最後のお正月のショートは加賀谷視点のお話で、ちょっと着物フェチの気のあるらしい(笑)加賀谷が連に着物をプレゼント、それを着て初詣に、というこれまでよりはほのぼの甘さの出ているお話。加賀谷と同じく男の着物姿は色っぽいと思うので、連が着てくれてよかったね! と思ってしまいました(笑)

ところでこの作品には、連が前科者であるために彼が温めていたささやかな夢さえも消されたりと前科者へ向けられる眼差しやそのためにレッテルを貼られてしまうといったことが容赦なく書かれていて、関わる人すべてが理解のある人だとか彼を暖かく受け入れ応援してくれるとか、フィクションではありがちな、でも現実では絶対ありえない優しさはありません。あっても例外中の例外で、現実はこんな感じなんだろうなとひしひしと実感してしまう。
辛くてやるせない気分にさせられますが、でもそうでなければ成立しないのがこの物語なんだと思います。
このことを含め彼らが抱える問題は、最後まできれいに解決されるわけではありません。
ありがちな解決策を持ってくるのではなく、あえてそうはしないことでそれでもお互いを信じ合い想い合っていられるのならば彼らはこの先も幸せになれるはず、最期まで読んだらなんだかそう思えてくるお話でした。
そんな、萌え度やエロ度が高いわけでもないし華やかさもコミカルさもありませんが、読み終えた後は不思議と温かなものが残る一冊です。

「花蝕の淫―狂おしく夜は満ちて」 華藤えれな / ill.朝南かつみ

 北嵯峨の僧庵で、出家し世俗から逃れるように隠れ生きていた清祥。しかし、自分の運命を狂わせた男が再び彼の前に現れ―。まだ十代の頃、桜舞散る京都で出会った闇色の双眸の男・竜二郎。両親を知らずにいた清祥は祖母の葬儀から拐われるように連れられた屋敷で、己が月嶋組組長の息子であることを知る。世話役として、竜二郎に実父の前で犯された清祥は、同性にねじ伏せられ支配される屈辱と恐怖を感じながらも、身に潜む業を引き出されていき―。

朝南さんのイラストに、つい、坊主…!と興奮してしまいましたが(笑)、主人公が剃髪するまでのいきさつと成長が主の主従モノで、剃髪後のお話は少なめでした。

実の親を知らずに育った清祥(受)は、僧籍にある養父の教えのまま自分も仏の道を進もうと、京都の仏教系の大学に進学する。その京都で危険な香りのする男・竜二郎(攻)と出会い、漠然と仏門に入ろうとしていた心を揺さぶられて、清祥の日常は変わっていきます。
竜二郎との出会いから一年、清祥は思わぬ形で彼と再会し、そしてその口から自分が月嶋組組長の息子であるというとんでもない事実を告げられる。更には、月嶋組を継げという僧籍を志す清祥には絶対に受け入れられない要求をしてきます。
組を継ぐことを頑なに拒否する清祥を、その世話役となった竜二郎は犯し、更にはその背に自分の背にある刺青と対を成すお能の「道○寺」をモチーフにした刺青を入れて、二度と普通の人生を歩めないようにしてしまいます。
そして刺青を入れられた清祥の方にも、その情念が宿るかのように変化が現れる。
刺青が彫られた人の人格を支配して、という内容の作品といえば沙野風結子さんの「蛇淫の血」を思い出しますが、こちらはそこにお能の物語の情念を絡ませ、よりねっとりした印象です。
そして自分の背負っている宿命に翻弄されてそれから逃れようとしていた清祥がやがて自分の宿命を受け入れる覚悟をしたころ、組の跡目を狙う異母弟の渉が清祥の前に現れて波乱が起きます。

華藤さんが書くとヤクザの世界も殺伐さとは無縁の情緒さえ感じさせるしっとり任侠道で、全体通じて耽美的な雰囲気濃厚です。ヤクザの跡目争いが主題なのに(笑)。
出てくるヤクザもBLで流行りのインテリヤクザではなくて昔ながらの任侠ヤクザ。京都が舞台のためなのか古風なくらい。その京都も生活臭のしない理想化された地として描かれていて、これは現代ではなくてちょっと昔の話にしたほうがしっくりきたのかも。昭和の任侠ヤクザって萌えません?(笑)
あと、全体に渡って桜が幻想的で妖しい彩りを添えています。これ、紅葉狩りの季節ではなくて桜の咲く頃に読んだほうがより雰囲気味わえるかもしれません。
それから、坊さんヤクザっていうのはBL広しといえどもこれが初ではないでしょうか? 清祥は出家し剃髪して俗世でのしがらみを捨てたはずだったのに、その中にあった情念はそう簡単に流せるものではなったんですね。剃髪してからの方が禁欲的な雰囲気があるぶん清祥の抱える悩ましさも増していてエロティックでした。

ただ、これだけ丁寧で幻想的にすら描かれているのにキャラが好みじゃないというかいまいちつかめなかったためなのか、萌えはあまり感じられませんでした。
清祥はもうちょっと男前なくらいのほうが良かったような。そのほうが剃髪後の凛とした感じも引き立った気がします。
対する竜二郎も、何を考えてるのかつかめず、いつの間に清祥にそこまで入れ込んでいたんだと思えてしまって清祥に対する感情の動きがもう少しわかるように書かれていたらなぁと残念です。
変わって強く印象に残ったのが清祥の異母弟の渉。正直、清祥の京ことばには終始違和感が付きまとったんですが(生活圏だからですかね…)渉の大阪弁は小気味良く響きました(笑)。凶暴な美青年、いいですね!! で、何となく彼がらみのスピンオフでも出るんじゃないだろうかという気がします(笑)

朝南さんのイラストは素敵です。カバーの妖しい感じはもちろん物語を見事に表している口絵がいいです! 欲を言うならば、ふたりの刺青の絵が見たかったです。

「秘蜜」 いとう由貴 / ill.朝南かつみ

その電車に乗ったのが、淫らな悪夢の始まり。平凡な会社員・佳樹は、満員電車で痴漢に遭う。艶やかな色気を放つ英一と季之に身体を嬲られ、ふいに洩れたのは甘い吐息。執拗に追われ、下肢に淫具を挿れられた佳樹は、男達に従うしか術がなかった。エスカレートする行為によって、彼らにしか反応しない身体にされた佳樹。彼らにとって自分は羞恥奴隷でしかない。そこに愛があるはずがないのに、愛されたいと願ってしまうようになり…。

朝南かつみさんの色気ダダ漏れの攻×攻ぽい表紙イラストに惹かれて手に取りました。攻っぽいも何も、このふたりはやっぱり攻めで、受けの子は表紙を開いた先にいました(笑)。もう、表紙と口絵の絵だけでもごはん三杯くらいいけそう(笑)
というわけでいとうさんの3Pものです。それもノベルズで二段組みというボリューム。

ごく平凡なサラリーマンの佳樹(受)は、ある朝通勤中の満員電車で男に痴漢され、あろうことか感じてしまう。以来彼は痴漢を仕掛けてきた英一(攻1)と季之(攻2)のふたりによって羞恥奴隷へと調教されていく。
佳樹は取り立てて華やかな外見を持つでもない、どこにでもいる普通のサラリーマン。彼に目を付け調教していくふたりは、如何にも冷淡なタイプの高級官僚・英一と茶道家元の子息で華やかな雰囲気をした季之。タイプがまるで違いとても対照的です。
彼らふたりは自分たちの性癖を変態性のあるものだと自覚していて、自分たちの性癖を満足させる「羞恥奴隷」を探しては調教し共有していますが、その誰もが次第に行為に慣れて恥じることを忘れ快楽ばかりを求めるようになるので長続きはしません。羞恥を忘れてしまった存在では、彼らには意味が無いんですね。そんなふたりにとっていつまでも初々しいまま恥じてばかりいる佳樹は、格好の餌食です。
佳樹は、最初は同性に嬲られて感じてしまう自分に悩みまくり、ゲイではないはずだと女性を試してみたりと、BLの男子には珍しく(笑)正常で健全な男子なら出るだろう行動に出ますが、失敗に終わります。躰がふたりの男によって教えられた快楽にしか反応しなくなっているんです。
それで結局、自分は「誰かに見られている」状況下でコトに及ぶのがいちばん感じてしまう人間であることを悟り、彼らの羞恥奴隷になることを受けれ入れる。

数ある3Pものが大抵最後は3人で甘々な恋人同士になる顛末な中、この作品は最後まで攻めふたりにとっての最高の羞恥奴隷を調教していくお話です。愛や恋心よりもさきに「恥じること」を重要視し、受けもそれに堕ちていく、という歪みまくった関係性はとても新鮮でした(笑)。
痴漢電車に始まり野外とかとにかくバリエーションに富んだシチュでのエロてんこ盛り(笑・何しろ佳樹の処女喪失さえも○○○でですからねぇ…)で、その中で「誰かに見られているかもしれない」というスリルを味わいながら今まで覚えたことのない快楽を知る受けというのが、覗き見、というか視姦プレイっぽいのが大好物な私にはたまらんかったです(爆)。
そもそも。3Pに限らず複数プレイというのは、受けにとっては「見られる」視線の増えるプレイでもあると思うんです。佳樹は英一と季之に抱かれている時でさえ自分の恥ずかしい姿を見られている、と羞恥を覚えていて、そいう視姦されているという感覚に着目している珍しい作品な気がしました。
これぞ羞恥奴隷…!(笑)
そんな内容なので、甘さはまるでありません。ダメな人はとことんダメだと思います。
でも、一見冷たそうで愛情などカケラも持ってなさそうな英一の方が最終的には佳樹に執着を覚えるようになっていたりと、この先はあんがい甘々な関係になるのでは? な気がしなくもない作品です。