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  • 2014.07.28 Monday
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「金銀花の杜の巫女」 水原とほる / ill.葛西リカコ

顔に火傷痕がある幹(みき)は、神の言葉を授かる古い巫女一族の末裔。だが能力は僅かしかなく、巫女は幹よりもずっと美しく力を持つ双子の弟・咲(さき)が継いでいた。そんなある日祖母から、もうすぐ男が幹に会いにやってくると預言される。その言葉通り議員秘書の田之倉(たのくら)が神託を受けに現れた。傷痕など気にもせず幹を美しいと言う優しい彼に惹かれていく幹。けれど咲もまた田之倉に心を奪われて……!?

一ヶ月以上も放置してしまいました。。そして色々と不義理を働いてしまっています。すみません…。
色んなことに追われて気が付いたら3月も後半に差し掛かっていて焦りまくりな上、もともと読むのが遅いもんでここのところは積ん読増やしてばかりですが私はその上に書くのも時間がかかるもので; ここも時間に余裕が無いとなかなか更新ができず…。
年度が明ければもう少しゆとりができるかなぁ? 心ゆくまで萌えな世界に浸りたいーー!…と思うこの頃です。

…なんてぼやきはさておき。
水原さんの新刊読みました。珍しく痛くない話だった上にどうやら初となるらしいファンタジー風味の因習もので、けっこう新鮮でした。
以下かなりバレちゃってますのでご注意下さい。

深い山間の神の言葉を授かる巫女一族の末裔である幹(受)は、哀しい出生のために顔に火傷の痕があり能力もそれほど持っていません。巫女は美しく能力の高い双子の弟・咲が継いでおり、幹は何もかもが正反対のこの弟の影のようにひっそりと生きています。
そんな幹にある日祖母がもうじきある男がお前に会いにくると予言し、その通り数日後、巫女の神託を受ける目的で議員秘書だという男・田之倉(攻)が幹の前に現れます。
顔の火傷痕を気にすることもなく優しく接してくれる田之倉に幹はやがて惹かれていきますが、一方で何処か掴みどころのない田之倉に、同じように咲も惹かれていることを知ります。
田之倉は自分ではなく咲を選ぶだろうと幹が諦めにも似た思いを抱いた通り咲と田之倉は深い関係になって行きますが、しかし田之倉は幹の世界を一変させる存在になるのです。

お話は幹と咲それぞれの視点が入れ替わりながら進みますが、段々奇妙な歪が生じてきて咲は実は…という意外な事実が明らかになっていきます。
実は…なんてぼかすとめんどくさくなるのでもう書いちゃいますが、咲は初めから存在しておらず、そこにいたのは幹ひとりだったんですね。
それが咲が幹の別人格とかではなく、生まれたと同時に死んでしまうことになったその魂を祖母が引き留めていたという設定で、このお話の不思議さを引き立てていました。
ずっと火傷の痕をきにして影のように生きてきた幹がちゃんと存在して、美しく奔放な咲の方が実体を伴っていなかった(というか幹の中に共存していた)というのが意外でしたが、けれどもそんな正反対なふたりが同じように孤独の中にいたことが切なかったです。

そのふたりが揃って孤独を埋めるように田之倉に惹かれるのは分かるんですが、田之倉があそこまで幹(と咲)に惹かれた理由が見えてこなかったのが惜しいですね。
というか、このお話受けの印象の強さに対して攻めの存在感がかなり薄いです。
終盤になって田之倉の正体が明かされていますが、一族との因縁にしろ血縁関係にしろ取って付けたように感じて、攻めの存在感があればもう少し違ったなのかなと思ってしまいました。

一族が幹で途絶えてしまうという避けられない事実があるためなのか全体的に滅び行くものの物悲しさや寂寥感が漂っていて、それが他の因習ものにはない不思議な静けさを感じさせてくれます。
生々しさがない分作り物めいていると感じる人もいるかもしれませんが、私はこの雰囲気好きです。
いつもは線の細いモノクロに味気なさしか感じない葛西さんのイラストも、今回はそれが逆に寂寥感を出していてお話によく合っていました。

「修羅の華」 水原とほる / ill.高緒拾

僧院で修行に励みつつも、魂の片割れとも思うカードマと戯れる日々。そんなアーシャのささやかな幸せは、養父である尊師の死と共に終わりを告げた。母を庇って父を殺害したカードマを救うため、アーシャは欲深い座主に身を任せる。ところがさらに悲惨な事件が起き、カードマは失踪。取り残されたアーシャは、座主の慰み者になっていた。だが、復讐を誓うカードマと再会し―!

あらずじを見た時から、6月に出た「真夏のクリスマス」っぽいお話なのかなと思ってしまいましたが、こちらは悲劇に終わったあちらと違って後半は見事な復讐劇でした。

東南アジアにあると思しき仏法を尊ぶとある国の小さな街。
幼くして孤児になってしまったアーシャ(受)は、寺院に引き取られて座主のルワン尊師の養子になり僧侶となるべく修行を積む日々に身を投じることになりますが、そこで寺院の下働きをしている男の息子・カードマ(攻)と出会い「自分の魂の半分」なのだと思うほど心を通わせるようになります。
しかし尊師の唐突な死の後、寺院は欲深い新たな座主ニキの意のままになってしまい、また金鉱脈の発見で活気付き始めると同時に悪がはびこるようになった街の様子も変わっていく。
そんな中で身を持ち崩した父親をカードマが殺してしまう悲劇が起こり、カードマは大罪とされている親殺しを犯した罪で捕まってしまいます。
カードマを救いたい一心で、アーシャは警察と癒着しているニキに縋りますが、ニキはその代償としてアーシャの躰を要求、アーシャは弄ばれてしまう。
ほどなくしてカードマが戻ってくるものの、ある不審な事故がきっかけでカードマは街から脱走、結局アーシャの前から姿を消してしまいます。
それから6年、アーシャはニキに弄ばれ続け、限界を感じて死のうとしたその時にマフィアとなって街に戻ってきたカードマと再会し助け出され、ふたりは運命を狂わせた存在への復讐を誓うのですが…。

「真夏のクリスマス」が欧州の片隅ならこちらは東南アジアの、同じようにいつの時代の何処ともはっきりしない街を舞台にしたお話。タイトルからしてそうですが、キャラの苦悩や行いなどがいちいち仏法に関連付けられていて、それが仏法を尊ぶ場所でのお話なんだな〜と感じさせてくれます。
孤児の受けが幼い頃に運命の相手である攻めと出会い愛を育むも離れ離れとなり、受けは第三者の慰み者になり攻めはマフィアになって再会を果たすというお話の流れや、受けの設定が東洋の血が入っていたあちらと同様に今回のアーシャも西洋の血を引くような容姿の持ち主として周囲の目を引いていたりして、なんだか舞台を変えた別バージョンを読んでいる気分でした。
けれどもふたりが再会を果たした後の展開がだいぶ違い、これは似た状況でも悲劇にはならなかったふたりのお話でした。

カードマがいなくなったあとアーシャがニキの手から逃げようとしなかったのは、いつかカードマがここに戻ってくるかもしれないという一縷の希望があったから。
そのためにニキの悪行にどうすることもできずにいたアーシャはひたすら耐えるだけの弱い存在に見えましたが、カードマが戻ってきてからは一転、半身が戻ったことで自分を取り戻したように弱さや迷いを無くして諸悪の元であるニキたちへの復讐を果たすべく「修羅の道」を行く存在になります。

アーシャにとってカードマは、「恋人」とか「好きな人」という言葉では足りないほど大切で不可欠な存在という感じが伝わってきて、そんなカードマを救うためにニキに躰を差し出したことやそれでもカードマと離れ離れになってしまったこのは見ていて苦しかったです。
ニキに躰を差し出した時、修業に身を置くばかりに世間知らずなアーシャは本当に何も知らないおこぼで、そこにうっかり萌えてしまいましたが(すみません汗)、あれは本当に気の毒ですね。
さらにアーシャは僧侶でもあるので、教えに背いているという苦しみもあり…。
カードマにとってもアーシャは自分の片割れのような存在なんだろうと思いますが、正直あのままアーシャを残して逃げたらアーシャがニキに弄ばれるだろうことを分かりきっていたカードマが、それでもひとり去ってしまったことにはちょっと違和感が残りました。まぁ、アーシャを連れて逃げるのはあの段階ではムリだっただろうしああする理由もあった上でのことなので、苦渋の選択ということでしょうか。
でもやっぱりあの瞬間、離ればなれになることに絶望するアーシャほどにはカードマはそのことに苦しんでいるようには見えず、その割に再会した時のあの縋り様は…とか(まぁ状況が状況でしたけども)、肝心なところでカードマの心理がよく見えてこなかったのが残念でした。
どうもカードマの軸足が、アーシャを取り戻すことと復讐を果たすことの間でブレているような感じがしないでもなかったです。

立ち向かうべき敵がマフィアではなかったことがふたりの闘志に火を点けたという感じですかね。腐敗しきっている僧侶や警察というのはもうマフィアよりタチが悪くて、同情の余地のかけらもありません。
なので、その末のあのラストにはだいぶ胸がスッとしました。
そんな復讐劇では途中かなりハラハラさせられる部分もありましたが、全体的に盛り上がりに欠ける気がしたのは登場人物から少し距離を置いて書かれているような文体のせいでしょうか。
のめり込むには何か物足りなかったです。

「夏陰 -cain-」 水原とほる / ill.高緒拾

早くに両親を亡くし、姉とふたり慎ましく暮らしていた大学生の雪洋。しかし、アルバイト先のバーで冷酷な瞳の男・岡林と出逢ったことで、それまでの平穏な日常はあっけなく崩壊する。雪洋の清廉な印象を持つ美貌と意外にも強気な態度に心惹かれた岡林は、その体を凌辱したばかりか自分のものになれと言い放ったのだ。暴力団の要人である岡林に刃向かう術もなく、雪洋は決して逃れられない腕へと堕ちてゆくが──!? 小説ピアス期待の新鋭、渾身の書き下ろし長編が登場。胸に突き刺さる執愛の行方は……。

水原さんの昔の作品を〜♪ …と、何とデビュー作であるというこのお話を手にしてみたんですが、、これはちょっと合わなかったです;
やっぱり執着ものはダメらしい。。

苦学生の雪洋(受)はバーでアルバイトをして生計を立てていましたが、そこに気まぐれでやってきたヤクザの岡林(攻)に一方的に気に入られ、その場で犯されてしまう。
その後、岡林は雪洋に「俺のものになれ」と言い出し、ついには拉致同然で生活を共にすることを強要、平凡だった雪洋の日常は一変してしまいます。
監禁状態の中で岡林の歪んだ執着と暴力を受けていくうち、やがて雪洋は岡林へと堕ちていくのを感じ始めますが。

…と、執着ものの王道まっしぐら(?)な内容なんですけれど、肝心のキャラの心理がまったく見えてこないため感情移入も共感もできず、最後までなんかもやもやすっきりしなかったです…。
そういえば水原さんに苦手意識があったのは、イラスト買いで初めて読んだ「午前一時の純真」がこの手の作品だったからだということを思い出しました…。

岡林がなぜここまで雪洋に執着したのか、そして容赦のない暴力を振るってまで従わせようとするような岡林に雪洋はどうして惹かれてしまったのか、このお話を納得するために最も必要なところが抜けていた気がします。
特に雪洋が何を考えているのかがよく掴めなかった。ふらふらと定まらない印象の雪洋の心情がもう少しはっきりしていれば、だいぶ違った印象になっただろうなと思いました。
岡林も不器用な上に壊れている人間なのは分かったけれども、やってることに突っ込みどころが多いしいまいちどこに魅力があるのかがわからないというか…。

こういう攻めが一方的に受けに執着するお話って、どんなに酷いことになってもそれでもお互いを求めざるを得ないことに納得できる理由がないと本当になぜ?? という気分になってしまうんですよね。
執着ものが苦手なのでいまいちノれないのも大きな原因だとは思うんですが、こんな事態になったら普通は最近読んだ 「真夏のクリスマス」「唐梅のつばら」のようにむしろ逃げようとするのが当たり前で、相手に心を傾ける要素がどこにあるよ? と思わずにいられません。
BLではわりとこういう作風が人気のようですが、ちょっと、個人的にホラーにしか見えなくて未だにさっぱり良さがわからないです;

ヤクザものだし何より水原作品なので暴力シーンなども頻出しますが、そこまで痛くはない印象。
ただ、この方の描く痛いシーンは何か求めるベクトルが違うので、痛さの加減以前にどうにも愉しめないのがツライところなのですが;
衝撃の「ウェディングケーキ入刀」は、これもう冗談でしょうという気にさえなってしまいました(汗)。
なんだかんだで、痛い展開に免疫のいない方は気を付けた方がいいかもですね。。

続編出てますが、…うーん、今のところ読む予定はないです。。

「唐梅のつばら」 水原とほる / ill.山本タカト

広域指定暴力団滝川組に養子として引き取られた初乃を待ち受けていたのは、組長であり養父でもある滝川悦造の愛人として監視される歪んだ愛欲の毎日だった。男に抱かれ、男の視線に晒される屈辱と恥辱を倦みつつも、初乃にはほかに選択肢がなかったのだ。そんなある日、初乃の前に真っ直ぐな目を持つ男・花村が現れた。強く惹かれあうふたりだったが、運命はふたりに過酷な試練を与えて…嗜虐と純愛。精緻な愛の物語、ついに登場。

ずーっと気になりながらも読むタイミングを逃してきたこの作品、やっと読むことができました!
なんといっても挿画(「イラスト」ではなくこう言った方がしっくりきますね)を担当されているのが、あの山本タカトさん! しかもカバーのみならず口絵や本文挿画が10枚も…! 大ファンなのでこの豪華さにはすっかりやられてしまいましたっ
ところで、水原さんは最近の作品よりもちょっと昔のものの方が濃厚な印象。実は苦手意識があったんですけど、作品によってはかなりはまることにいまさら気が付きました(汗)。

親の借金の形として、表向きはヤクザの組長・滝川の養子にされ実際には愛人として囲われている初乃。
持病のせいで不能になっている滝川によって執拗に弄られる日々に初乃はただ絶望していましたが、屋敷にやってきた庭師の青年・将大と出会い、彼のおおらかな優しさに救われてやがて恋をします。
けれどもたった一度将大とふたりで映画を見に行ったことを知った滝川が激怒、初乃は酷い折檻を受けた上に将大と逢うことを禁じられてしまう。
それでも周囲の目を掻い潜って初乃に逢いにきた将大の「なんとかするから待っていてくれ」という言葉を支えに、初乃は再び将大に逢えることだけを夢見て辛い日々を堪え続けます。
2年ほどして滝川が亡くなりこれで自由になれると思っていた初乃でしたが、ところが今度は組を継いだ滝川の息子・悦司のものとして扱われることになってしまう。
初乃を憎んでいるという悦司は初乃に容赦なく、初乃は今度こそ本当に犯され、更には悦司によって組の利益のためにと多くの男たちに体を売る目にも遭わされる。
悦司の妄執から逃れられないと今度こそ全てを諦めかけていた初乃の前に、将大が組の構成員となって姿を現し…。

タイトルにある唐梅は初乃その人の象徴。作中にも何度も印象的な登場をしています。そんな唐梅のように凛とした初乃が、ヤクザの家に入ってからそこを出るまでの、長く辛い、けれども決して折れることのなかった年月を描いた、まるで壮絶なドラマを見ているかのようなお話でした。
初乃のように次々と起こる不幸に立ち向かうでもなくただ嘆くだけの受けはあまり好きじゃないんですが、まぁでも普通の家庭で育ったわずか13才の少年がいきなりヤクザの養子、それも実態は愛人にされてしまったら自分ではどうにもならないと思うのが普通な気もします。
初乃が自ら運命を切り開くタイプだったらこのお話は成り立たないですしね。
初乃は色々と酷い目に遭っていますが、少し距離を取ったような客観的な描かれ方をしているためそこまで痛い印象はありません。
そして、雰囲気はそこはかとなく耽美ですが文章そのものは華美ではなくあっさりしているので耽美というわけではないです。その辺りが、JUNEっぽいけれどBLかなという感じ。

滝川の家に入ってから誰にも心を許せなかった初乃にとって、おおらかな将大はそれは眩しく見えただろうなと。このコントラストが効いています。
そして将大が初乃を部屋の窓から外に連れ出したことは、初乃に生涯忘れられない解放感を与えただろうなと思いました。
と同時に、この時に初乃はこんな風にいつかこの家から出られるかもしれないという希望を初めて抱いたんじゃないのかと思いますが、それが後々まで初乃が滝川の家に縛られる元となってしまうのはあまりにも皮肉でしたね。

長く心を通じ合わせていた初乃と将大でしたが共にあった時間はすごく少なくて、ともすればもうひとりの男・悦司の凄まじい存在感が将大を霞ませてしまう勢いだったりします。
そして、初乃にとって初めての男であり将大とは比べ物にならないほど長い時間を過ごすことになるこの悦司の存在が、お話を面白くしていると思いました。
養子として外からヤクザの家に入った初乃とは違い、ヤクザという存在を嫌悪しながらも生まれながらに家を継ぐことを運命付けられていた悦司の抱えていた苦しみは、絶対に逃れられないだけにもしかしたら誰よりも辛く孤独だったかもしれないと思うと、けっこう切なくなってしまいました。
滝川の家に囲われて窒息しそうだった初乃が将大の存在に救われたように、きっと悦司にとっては初乃が精神的な支えだったのでしょうね。
そういうぎりぎりの状態にあるという意味では、立場は間逆だけど初乃と悦司は似たころにいて、悦司の方はそれが解っていたから初乃の支えである将大を消すことを敢えてしなかったんじゃないのかと。
このふたりはもしかしたら誰よりも理解し合えたかもしれないのに、最後の最後まで初乃は悦司の抱える苦しみに気が付かず、悦司は決して本音を語ることがなかった。
なんとなく、もしもあの時初乃の前に将大が現れなかったら、初乃と悦司との関係はもっと違ったものになっていたのかもしれないなとも思え、それが読後に何とも言えない寂寞感を漂わせています。
そんな悦司が残された手紙で全てを語るというのは他のお話だったなら都合よすぎるだろうと思うところですが、ここではこうでもしないと本心を語れなかった悦司のどうしようもない不器用さが表されていてすごく納得で、そんな彼の姿にはむしろ愛おしささえ覚えてしまいました。

壮絶な内容に圧倒されてしまいますが、けれども決して萌えがないわけではありません。
初乃と将大が初めて体を重ねるシーンは、何だか初々しくて好きでした。
そういう、BLとしても愉しめる部分がちゃんとありますし、逃亡のシーンはかなりハラハラさせられて久々に手に汗握ってしまい、意外な面白さもありました(笑)。
ラストはハッピーエンドとは言い難いのですが、それでも残された希望に初乃はきっと幸せになれるだろうと思えました。
しばらくは深ーい余韻が残ったままになりそうです。

そして冒頭にも言いましたが、山本タカトさんの挿絵が本当に素晴らしいです。
耽美な美少年画で有名な方ですし、その昔はJUNEで仕事をされていたり山藍紫姫子さんの「天児」(バニラ新書「シシリー」収録)のイラストを描いていたりとやおい文化とは極めて近いところにある方ではありますが、いわゆる「BL小説」の挿絵を担当されるだなんてという驚きは大きいです(山藍さんの作品はBLっていうよりは耽美な時代絵巻でしたので)。
で、ごく稀に一般で活躍されている作家さんがBL小説のイラストを描かれることがあっても、カバーイラストだけだった…なんてことが多い中、これはカバーのみならず口絵はもちろん本文挿画も10枚あるという大判振る舞い!
これだけでも感動なのに、挿画の一枚一枚が素晴らしすぎます!
モノクロだと、彩色されたものよりもためらいのない線画の美しさがより際立ちますね〜^^
一般の方がBLを描くとやたら象徴的なイラストになったりとどうしてもBL的萌えを理解していないんだなーと思ってしまうことがあって、コラボ的には豪華なんだけどBL的には消化不良に感じることがよくありますが、山本タカトさんは違います。さすがわかっていらっしゃる!
あんながっつり絡みのシーンがあるとは思わなかった(笑)。
タカトさんの描く美少年ってがりがりに痩せた感じではなく肉感的なので(陰影のない絵なのにすごく不思議)、ものすごくエロティックなんですよ。そこに萌えてしまいます!
因みに、タカトさんのイラスト集でいちばんのお気に入りは「ファルマコンの蠱惑」です。この「唐梅のつばら」のカバー絵が収録されている「殉教者のためのディヴェルティメント」や少年愛っぽい作品の多い「緋色のマニエラ」も好きなんですけど、個人的に好きな作品が多いのです^^BL(というかJUNE?)な作風のものも多くて、そこもツボなんですけどね(笑)。
作品選ぶと思いますが、またいつかBL小説の挿画も担当してほしいです><

「窓」 水原とほる / ill.奈良千春

高校2年の時、逆恨みで陵辱されかけた保(たもつ)を助けてくれた1年の隆明(たかあき)だが、なぜかその後強引に身体を繋げてくる。大学になって離れたのもつかの間、また隆明は追いかけてくる。逃げたいが逃げられない状態のまま、出会ってから9年が経った。そんなある日、突然態度に優しくなった隆明が告げたこととは…。

水原さんの初期の中〜短編集。
「窓」、「温い血」、「秘密」、「黄色い花」の4作品が収録されています。
読む前は執着系のお話ばかりなのかなと思っていましたが、SMや耽美なお話もあったりで色々と美味しい一冊でした(笑)。

「窓」
★★★☆☆
高校時代、逆恨みで不良たちに襲われかけた保(受)は一つ下の隆明(攻)に助けられるもののその場で犯され、それ以降明は一方的に執着されるようになってしまう。
隆明は進学しても社会人になっても保を追いかけてきて、気が付けば度を越した執着は9年も続き、保は隆明にいつしか恐怖だけではないものを覚え始めていることを自覚します。けれどもある時、隆明が「別れよう」と告げてきて…。

最近ようやく悟ったんですが、私、BLでいちばん苦手なのは執着もののようです。特にヤンデレっていうんですかね、病的だったり歪んでいたりする執着攻めがどうにも受け付けない。大抵がそこまでするほど受けに魅力がないケースが多い気がしますし、それで周囲を巻き込んでいたりしたらもう本当にダメです。
なので、執着もので有名なこの作品も覚悟して読んだんですが(大袈裟か)、予想に反してこれが案外大丈夫でした。
関係の始まりが高校生の時だったことがプラスに働いたというか、隆明は保に一目惚れしたのにどうしていいのかわからずこんなことになったという印象で、このある意味不器用とも取れるところがなんだか可愛かった。
まぁ、進学後や社会人になってからも追いかけてこられたり、恋人ができそうになるたび強制的に別れさせられたりした保にはたまったもんじゃなかったでしょうけれどもね(苦笑)。
そんなふたりが、始まりこそ間違えたけれどちゃんと向き合って手を取り合えたのがとてもよかった。執着ものですけど、読後感は爽やかです。

ところで、こうした一方的な執着で始まるお話ってBLではよく見かける気がしますが、これ普通に男女だったら嫌悪感や恐怖を覚えるレベルなのに、BLだと許容してしまえるのは基本的に力関係の覆せない男女と違って男×男だと対等だからかもしれませんね。そこらへんに安心感を覚えるというか。いや男相手でもそれはダメだろと思うこと多いんですが(笑)。
ともかく、男×男だからこそ安心して愉しめるジャンルだと思いました。

「温い血」
★☆☆☆☆
離婚した親に嫌気が差した高校生の和己(受)は、両親のどちらでもなく子供の頃から自分を可愛がってくれている叔父の俊和(攻)のところにいたいと言い、俊和は「どうなっても知らないよ」と意味深な言葉を告げて和己を受け入れます。
和己は長年俊和が自分を甥以上の目で見ていることを自覚していて、生活を共にしたときから俊和とそれ以上の関係になることを受け入れるのですが、次第にどこまでも自分を甘やかす俊和にのめり込んでいく。
けれども俊和に自分以外の男の影がちらついたことに腹を立て、和己は仕返しとばかり行きずりの男と一夜を共にしてしまいます。
それを知って激怒した俊和が和己に取った行動は…。

どこか爽やかだった「窓」から一転、同じ執着ものでも叔父×甥の近親もので最後はふたりの世界にこもってしまうこの作品は全然ダメでした;
何より、俊和の和己への執着が気持ち悪すぎる。
ところどころで小さい頃から和己を…みたいなことを言っていて、彼はいったいいつから和己をそういう目で見ていたんだろう…と思うとゾゾゾ〜っとしてしまいました…。ショタがダメなので余計かも;
一方の和己も、甘やかされて育ったただのわがままな高校生にしか見えず何の魅力もなかった。
こういう系の執着ものは本当に苦手だなーとしみじみ実感してしまいました。
あと、イラストの俊和がイメージと合ってない。温厚そうなしゃべり方からして、ワイルドなオッサンじゃなく調教中も薄っすら微笑んでいるような怖さのある甘いマスクの男だと思うんですけど…。

「秘密」
★★★★☆
秘かに磔刑図に興味を覚えている高校生の薫(受)は、偶然知り合った公一(攻1)と雅弘(攻2)ふたりのS気質の男たちに誘われて彼らの相手をすることに。そして、ふたりの容赦無いプレイによってM性を暴かれていきます。

短いお話ながらすごくよかったです! 収録作の中でこれがいちばん好きかも。
公一と雅弘は恋人の関係ですがタチ同士なので抱き合うことはなく、ふたりでひとりのMを共有し、Mを介してお互いを確かめ合っている奇妙な仲。
しかも、Mを加えた3Pではなく順番にMを抱きそれをもう片方が眺めるという、かなり変わった愉しみ方をしています。
3人だけど3Pじゃないのが逆にマニアックで、攻め二人の特殊性が際立っている感じですね。
公一と雅弘それぞれに攻め方の違うSなのでそこも愉しめますし、そんなふたりによって普通の男の子がM性を暴かれていくというのがたまらんです(笑)。
もっとページがあってもいい気がするけれども、この量だから無駄なく愉しめるお話かもしれません。

「黄色い花」
★★★★☆
芸大生の隆一は、憧れの存在で滅多に表に出てこないことで有名な日本画家・水口に取材をするチャンスに恵まれます。
そして訪れた時間の止まったような水口の屋敷で水口の養子・旭の存在を知り、その美しさに惹かれていきますが、水口と旭との間にある普通ではない深い絆を知ることになり…。

短いながらJUNEな気配の濃厚な耽美なお話でした。水原さん、こんなお話も書かれていたんですね。
隆一がふたりの関係を傍観するのではなくその歪んだ絆を深めるための道具として利用されるのが、救いがないんですけどなんだかいい。
お互いに体を繋げることはないふたりが愛を確かめる手段として第三者を必要としているという点では、「秘密」と共通する部分がありますね。とても興味深いです。
こんなお話をもっと読んでみたいと思いました。


どのお話も、この長さだからこそ無駄のないストーリー展開で読みやすかったです。
少し前の作品なためか、受けが軒並み高校生以下なのも何だか新鮮でした(笑・「窓」は成長した受けの回想部分なので厳密には違うかもですが)。
最近はBLで短〜中編はなくなりつつある感じですが、この本の収録作のように短〜中編だから表現できるお話もあると思うので、また復活してほしい。っていうか、ここまで長編が好まれる理由って何なのだろう? よりエンタメ路線になっているということでしょうか。
ところで、お話の痛さは個人的にはそれほどでもなく普通に愉しめましたが、内部洗浄はなくてもいいんじゃないのかなと; 作家さんがそこにこだわりを持っていることは伝わってくるんですが、そこは敢えてリアリティを持ち込んんで欲しくないというか、正直萌えないんですけど。。

あと、このレーベルの特徴でイラストが漫画調でしたが、それはいいとしてセリフが入るのはどうなんだろう。
イラストが入るたびに気になってしまって、「黄色い花」みたいな耽美なお話にはむしろ邪魔になっていると思いました。
レーターさんのファンだったら珍しいのでいいのかもしれませんが、そうじゃないと蛇足に感じるだけのような気がしてちょっと残念でした。

「真夏のクリスマス」 水原とほる / ill.小山田あみ

孤児として育ったキヨとダイスは幼い頃から愛を誓い合い、孤児院を出てからも共に暮らしていた。街の居酒屋で働く二人のところに弟分だったテオも加わり、キヨはとても幸せだった。しかし、ダイスとテオがマフィア相手に事件を起こした代償に、キヨはマフィアの愛人として囚われてしまう。それでもダイスに会いたいという想いだけがキヨの支えだった。気が遠くなるほど時が流れたある日、ダイスがマフィアの次期ボスとしてキヨの前に現れて……。

水原さん、意外にも花丸BLACKではこれが初なのですね。
そしてBLACKなだけにどれだけハードな内容なんだろうかと思っていたら、予想とは違うベクトルでヘヴィーな、そして哀しいお話でした。タイトルの印象と3人いながらも静謐な感じのするカバーイラストからエロ路線ではないのかもと思いはしましたが、BLでここまで読後を引きずられる作品は久しぶり。ちょっとしばらく戻れなさそうなくらいです。
感想だいぶバレていますので、未読の方はご注意ください。

舞台は東欧を思わせる架空の国。
僧院の孤児院で育ったキヨとダイスは、子供の頃に神の前で「死が二人を分かつまで」一緒にいることを誓い合うほどお互いに想い合っている仲。成長して孤児院を出てからも共に暮らしていて、そこに同じ孤児院育ちの弟分テオも加わり貧しいながらも満ち足りた日々を送っていました。
けれども、今よりもいい暮らしを目指そうと隣町の賭場でイカサマをして稼ぎ始めたダイスがマフィアのボス・デステの愛娘サラの目に留まってしまったことが原因で、3人の穏やかな生活は終わりを告げます。
ほどなくしてテオがマフィア相手に問題を起こしてしまい、これがきっかけでキヨはダイスたちから引き離されデステの愛人として囲われることになってしまう。

キヨとダイス、そしてテオの悲劇は、キヨがデステに目を付けられたからではなくその娘のサラがダイスに執着してしまったから引き起こったというべきもの。
BLでここまでインパクト(もちろん悪い意味で)のある女性キャラは久々でした。マフィアのボスにまで上り詰めたデステですらこのひとり娘の策略に利用されているし、女の妄執は怖いですね…。
そしてこの父娘は執着の酷さといい他者の気持ちを知ろうとしない傲慢さといいそれはやっかいです。

デステに囲われている間、キヨはひたすら苦しみ続けます。
デステは相手を痛めつけその顔が苦しみに歪むことに悦びを覚えるようなサディストで、もちろんキヨの気持ちなど考えることもなく自由を奪って実質的に監禁状態に置き弄び続ける。
デステに初めて陵辱された時のシーンでは出血沙汰になっていますので、ダメな方は注意したほうがよさそうです。
かくいう私も、凌辱ものは普通に愉しめるのにこういうのは苦手です。私は陵辱シーンといえどもエロを愉しみたいのであって一方的な暴力を見たいわけではないので、それが痛い系の水原作品を苦手だと思ういちばんの原因かもしれません。
でも今回のキヨが置かれた痛いだけで救いの全くない状況は、それが酷ければ酷いほど哀しみや絶望も深いことが感じられて、必要のない痛さだとは思いませんでした。
その後のダイスに逢うこともかなわずただ流れていくだけの絶望の日々を、キヨが感情が半分死んでいるかのように淡々と送っているのも痛々しくて哀しかったです。
キヨにもうちょっと男らしいところがあったりデステを手玉に取ってしまうくらいのしたたかさがあっても良かったのではと思いますが、そうでないからこそ絶望も深いという感じです。

デステにキヨが囲われて5年、その間にダイスはマフィアとなりついにはデステの後継者と目されるまでになる。そして、サラの婚約者となったダイスとキヨが再会して3人の運命は再び動き出します。
キヨ、ダイス、そしてテオが何よりも望んだものは、マフィアという組織の中で得られる地位や金や権力ではなく、ただ昔のように3人で穏やかに暮らしたいということ。これを理解していなかったためにデステとサラは失敗したわけですが、どれだけ年月が流れても3人が一途に同じ想いでいたことが感動的でした。
お話はキヨ視点で進むので引き離されている間のダイスの思惑が見えず、まぁダイスはサラを利用してりんだろうなと推測はできてもキヨと同様絶望を彷徨うような気分でお話を読んでいましたので、余計ぐ…っときました。
特に、キヨとダイスが漸く真の意味での再会を果たしたシーンはじんわり滲みました。キヨが長い苦しみから漸くここで解放されるんだなと思うと本当に泣けてきましたね。
カバーイラストに3人いることからも推測できる通り3人でのシーンもありますが(ただしテオはここでキヨと一線を越えてません)、明日の命も知れない逃亡の途上での流れは自然で、むしろ3人の絆の深さを改めて感じさせられました。

逆に言えば、キヨとダイスにそうした野心がなかったことが彼らの悲劇につながったとも言えるかもしれません。
ふたりの結末は、タイトルの「真夏のクリスマス」が示唆していると思います。
子供の頃から反対側の世界にあるという真夏にクリスマスが来る国に行ってみたいと願っていたふたり。けれども遠いその国は、ふたりがどんなに願っても行くことのかなわない幻の楽園なんですよね…。
いわゆるバッドエンドに種類はあれど、BLでこういうラストを迎えたお話を読んだのは初めてでした。
バッドエンドは嫌いではありませんが、ここまで壮絶な運命に翻弄された末にやっとささやかな幸せの訪れたふたりだったからこそ、ダイスの死には神(作者)に何故? と問わずにいられませんでした。ふたりには生きて幸せになってほしかった。
その後のキヨが辿る道は悲しいけれど、キヨにとってはダイスのいない世界を生きていくことがもう限界だったのでしょうね。ダイスが迎えに来たというより癒えることのない哀しみの中にあったキヨが見た幻のような気がして、それだとなお哀しいんですが、キヨにとってはこの方が幸せだったのだろうと。
ただ残されたテオがあまりにも可哀想で、でも彼には強く生きてほしいと思いました。

BLでは珍しく辛く救いのないお話でしたが、携帯やらネットやらが出てこないから今よりも少し前のようだけれども現代の事だと言われればそう思えなくもない曖昧な時代の、「北欧」とか「ラテン」とか現実にある地域的な単語が出てきながらもあくまで「この世界の何処かにありそうな架空の場所」が舞台になっているのが、変な生々しさを感じることなくお話に入り込めさせてくれました。
取って付けたように無理に日本人が出てくることのなかったのもよかったですね(笑)。
小山田さんのイラストもイメージにぴったりですごく素敵。
キヨがすごく女性的で、小山田さんイラストでここまで女性的な受けを見たのは初めてかも。それも含めいつもより少し耽美で、ハードなシーンやエロなシーンにもどこしらか切なさが感じられるのがとてもよかったです。

「フォルモサの夜」 水原とほる / ill.周防佑未

「貴方の為に、舞い踊りましょう」幼少時から将来有望な京劇役者の卵として励んでいた俊明は、父が亡くなり夢を断念した―。大学生になった俊明は、休暇で台湾に行った際、高級クラブの京劇に代役として出演することに。そこで俊明が出逢ったのは、片足をひきずった元刑事で汚れ仕事専門の私立探偵・三島だった。俊明は日本に戻り、失踪した学友の捜索を三島に依頼するが、手付金代わりに凌辱されてしまう。しかも事件に巻き込まれ、拉致されてしまい―。
作品紹介に凌辱云々と書かれていますが、間違いですね(笑)。水原作品なのに凌辱系でも痛い系でもない作品。
そして水原作品には珍しい男前受け・俊明がいい味出していて、とても面白い一冊でした!

父の亡き後、母の再婚で故郷の台湾を離れ、幼少の頃からの夢だった京劇役者になることも諦めて日本で暮らすようになった俊明(受)。20歳になった今は、日本の大学に通いながら休暇には祖父や友人のいる台湾に戻るという生活をしています。
台湾に戻ったある時、俊明は京劇仲間である友人の頼みで急遽クラブで京劇を演じることになるのですが、そこでちょっとした事件に巻き込まれ、俊明の機転で日本人の探偵・三島(攻)を助けるという予期せぬ事態が起こる。
ピンチを逃れた三島は礼の代わりに「日本で何かあったら、力になってやる」と俊明に名詞を渡します。
胡散臭い三島と関わることはないだろうと思っていた俊明でしたが、日本に戻ると大学の友人・小林がトラブルに巻き込まれているらしいことを知り、助け出すために三島の力を借りようとするのですが。

ワケあり探偵×大学生の事件ものというだけならわりとありがちかもしれませんが、このお話が面白いのはそこに京劇というかなり異色なスパイスを添えてきたところでしょうか。
タイトルにある「フォルモサ」とは台湾の別称で、ポルトガル語で「麗しい島」という意味。俊明と三島の関係がそこから始まるという意味が込められているのはもちろん、水原さんの台湾への思い入れもあふれたタイトルですね。
そんな台湾に生まれた俊明は日本人として生きてはいるものの、自分の本質的な部分は台湾人なのだと感じながら生きています。
日本人として生きることを選びながらも台湾に戻るたびに一度は諦めた京劇をやっている姿にも、彼の矛盾が出ている気がします。
そんな、ある意味自分を演じ分けている俊明の姿を、京劇役者のそれとシンクロしているような描かれ方がなされているのがとても印象的。
彼は京劇では女形を演じていただけに人目を引く美人ですが、芯の強さを持っているので女々しいところがありません。日本と台湾との間で悩みながらも翻弄される弱さはないので、見ていて清々しいです。
その俊明に、三島というそれまで俊明の周りにはいなかった異色のタイプの男が関わってくることで変化が訪れるのです。
三島は片足を引き摺った元刑事の探偵で、良くも悪くもおっさん(笑)。三島の、人のテリトリーに土足でずかずか入り込んでくるような遠慮のなさに眉をひそめつつも、俊明は彼に惹かれていきます。
…そのけっこう大きな原因のひとつが三島の顔が好みだったというのが、いいですね(笑)。ここまで正直に認めているのもBLでは珍しい気がします。
俊明が周囲に見えない膜を張っているからこそ、それを気にしない(気付いていない?笑)大雑把な三島に惹かれたのでしょうね。

ふたりが関わることになる事件の顛末も目が離せません。
けっこうまずいことに首を突っ込んでしまった俊明は、危うく命を落としかけ、遂には三島ともども敵に拉致されてしまう。
拉致された受けの危機を上手すぎるタイミングで攻めが助け出すのがBLのお約束ですが(笑)、このお話ではその攻めまで一緒に拉致されているので三島が颯爽と救出に現れることはもちろんなく、ふたりの危機を救うのは何と受け・俊明の方(!)。そしてここで京劇が大きな役割を果たします!スリリングな駆け引きともども読み応えがありました。
とにかく俊明が男前すぎる! 攻めに頼ることなくピンチを切り抜けるこんな受け、大好きです(笑)。男前受けが大好きな私にはたまらない!!
その俊明の横で三島は緊迫した駆け引きをダメにしかねないようなことをわめいているだけ(笑)というみっともなさもあって、俊明の頭の良さやしたたかさがいっそう際立つという(笑)。
あ、でも三島の足掻きは必死な分だけ俊明への想いが垣間見えてきて、きゅんとくるいいシーンですよ(笑)。

唯一疑問だったのは、三島がなぜあれほど俊明に惚れてしまったのか、その理由がよくわからなかったことですね。まさかこちらも顔が好みだったから?(笑)ともかく、もう一押しほしかったです。
それから、終盤間近に三島の過去が彼の口から明かされていますが、ここだけとってつけたような印象が…。彼の過去がお話そのものに絡むようなものだったらよかったのに。
というか、水原作品ってこういう終盤にキャラ自らが過去を語る・説明するみたいなことがわりとある気がするんですが、説明的に見えてしまってあまり好きではないですね。シチュやプレイ的なもので地雷が…という話はよく聞きますが、実は私はそれよりもこうした作家さん独自のクセや文体などに苦手意識を覚えることが多いです。

…とまぁ若干気になるところはあるものの、男前な敏明に惚れること間違いナシ! な一冊です。
水原作品にしてはエロさは普通ですが(笑)、男前受けがお好きな方はぜひ♪

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