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  • 2014.07.28 Monday
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「おやすみなさい、また明日」 凪良ゆう / ill.小山田あみ

「俺はもう誰とも恋愛はしない」。仄かに恋情を抱いた男から、衝撃の告白をされた小説家のつぐみ。十年来の恋人に振られ傷ついたつぐみを下宿に置いてくれた朔太郎は、つぐみの作品を大好きだという一番の理解者。なのにどうして…?戸惑うつぐみだが、そこには朔太郎が抱える大きな闇があって!?今日の大切な想い出も、明日覚えているとは限らない…記憶障害の青年と臆病な作家の純愛!!

先日に続きまたまた凪良作品です。
Chara文庫から出た新刊は、記憶障害のある青年とマイナーな小説家のかなり切ないお話でした。

長年一緒に暮らしてきた恋人に突然別れを告げられたマイナー作家のつぐみ(受)は、新しく部屋を借りるのに困っていたところを祖父がアパートを持っているというなんでも屋の青年・朔太郎(攻)と偶然知り合い部屋を借りることになります。
つぐみの小説のファンだという朔太郎は気さくで付き合いやすく、そんな彼に助けられながら一癖あるアパートの住人たちにも馴染んで新しい生活をスタートさせたつぐみ。
初めは元恋人のことや先のことで気が沈みがちだったつぐみでしたが徐々に朔太郎に惹かれるようになりますが、朔太郎から事故の後遺症で記憶障害があるという衝撃の事実と、そのためにもう誰とも恋はしないと告げられてしまう。それでも朔太郎の傍にいたいと願ったつぐみが選んだのは――。

記憶障害という、ヘヴィーだけども最早使い古された感のある題材ですが、記憶障害になる朔太郎ではなく受けのつぐみ視点なためか、ただの可哀想な泣ける話ではなく(いや泣けるんですけど)誰もが抱くことのある普遍的な不安を極端な形で描いたお話という印象を受けました。
つぐみの置かれた状況が極めて不安定で、彼が孤独や先のことで思い悩む姿に同情よりも共感を覚える人は多いのではと思います。
記憶障害ものとしても、BLだから病が元の死別というオチにはならないだろうからありきたりなハッピーエンドだったらイヤだなぁと思っていたんですが、誰かと記憶を共有していくかたちに落ち着かせているのがすごく良かった。
記憶は肉体以上にその人を形作っているかもしれず、その記憶が消えていくということは自分が自分であるということの根幹を揺るがす怖いことだと思います。その恐怖を克服していくふたりの姿がとても印象的でした。
読み終えた直後は実はさほどじゃなかったんですが、これ、後からじわじわきます。

つぐみが単なる売れない作家ではなく、純文学というマイナージャンルを描く作家だったことが良かったです。
純文学ってエンタメ系のように「ああ面白かった」で終わるわけでもなく売れる売れないでは価値を計れない、それこそ必要としない人には何がいいのか解らないジャンルなんじゃないかと思うんですが、だからこそつぐみの小説ではありませんがどんな存在でも「そこにいていい」圧倒的な肯定を与えているのではと思います。
そこが努力ではどうしようもないことで社会から弾かれてしまった朔太郎の心に響いたのだと思えたし、この説得力はつぐみが売れないミステリー作家や恋愛小説家(ヤコ先生の少女漫画の原作になりうるジャンルなのにあえてそうしなかったのが素晴らしい)とかだったら絶対にないですよ。
そして、そんな風に若干典型的なBLから軸足を動かしている作品だったからこそ、あのラストも受け入れられました。

それからつぐみが、かなり難しい状況に置かれているにもかかわらず閉じこもったりせず穏やかながらちゃんと先に進んでいける人だったのも良かった。
最初は十年付き合っていた恋人との別れに参って立ち止まりかけていたものの朔太郎に惹かれ彼の抱える問題の大きさを知ってから変わっていった姿に、これまでの凪良作品の年下攻めものの受けみたいに年下の男の子に手を引いてもらわければ動き出せいないめんどくさいタイプじゃなく、むしろ逆なんだなぁと。
これは、記憶障害という問題を抱えているのが攻めの朔太郎だからというのも大きいかもしれないですね。
というか、攻めの方にこうしたハンデがあるのって凪良作品では初めて読んだかも。そういう意味でもすごく新鮮でした。

こういうお話なのでもしかしたらスルーした方がいいかもですが(汗)、エッチシーンにすごく萌えてしまいました。
つぐみが朔太郎を慰めるつもりで受け入れた最初のシーンの、その時につぐみが自分の気持に気付いてしまうくだりは切ないですし、晴れて一緒になれた時のシーンは互いに求め合っている感じが濃厚でたまらなかったです。
こうしたBLとしての読み応えも外していないところがいいですね。

ラスト、というか本編後のSSは、BLでは賛否両論あると思いますが、記憶障害という難題を乗り越えたふたりのその後をここまで見届けられたたことに私は感謝しました。
「つぐみさんより長生きする」という誓いを守った朔太郎とその側にいたつぐみの生涯は、とても幸せだったのだと実感できて涙がじんわり。
もしかしたら若い時だとこのラストの良さは分からなかったかもと思いもして、これは読んだ人の年齢によって持つ印象が変わるかもしれませんね。今ダメだと思った方でも、もう少したったら逆の想いになるかもしれません。

小山田さんの、いつもよりも抑えた印象のイラストもお話にすごく合っていました。
読んでから気が付きましたが、口絵の一枚目は本編ではなくその後のふたりなんですよね。本編後のふたりの長い時間が、穏やかで優しく幸せなものだったんだなと感じられまたしても涙腺が…。
うーん、こういう読後感が待っているとは思ってもみませんでした。しばらくは浸っていると思います(笑)。

そうそう、作中に登場していたヤコ先生が出て来るお話が他にもあるようなので、そちらも読んでみようと思います。

「未完成(新装版)」 凪良ゆう / ill.草間さかえ

教師の阿南が男とキスをするのを見た高校生の瀬名は、学校とは違う艶めいた表情を見せる彼に興味を持つ。素っ気なくあしらわれても阿南の傍は居心地良く、瀬名は彼の部屋に通うようになる。そして自覚した恋心。がむしゃらに迫り阿南を抱くことはできたが、その心を手に入れたとは思えなかった。「俺のこと好き?」懇願するような瀬名の問いに、いつも阿南の答えはなくて……。文庫未収録の『Young Swallow』と書き下ろし『さなぎ』を加えた待望の新装版!!

2009年に花丸blackから出ていた作品の新装版。
今月もう一冊過去の凪良作品がこのレーベルからでるようですが、なぜ重版じゃなく別レーベルから出るのかちょっとフシギです。
それはさて置き、本編にドラマCDブックレットに収録されていたSS「Young Swallow」と、書き下ろしSS「さなぎ」を加えた内容です。
高校生×教師の愚直なまでに青くて痛い感じがたまらなくいいお話でした。

離婚寸前の親のいる荒れた家や友人たちとの空虚な付き合いに苛立っていた高校生の瀬名(攻)は、暇つぶしに立ち寄ったクラブで偶然、英語教師の阿南(受)が男とキスしているのを見てしまう。
冷やかし半分にからかうも、阿南は学校で見る時とは別人のような色気を漂わせながら瀬名をあしらい、その様子に瀬名は興味を惹かれます。
そんな、最初は興味本位で近付いた相手だったのに、阿南は瀬名を特別構うわけでもありませんが突き放しもせず、その距離間が瀬名に不思議な安堵感を与えます。
やがて瀬名は阿南に恋をしていることに気がついて阿南に想いを伝えますが阿南は全く取り合わず、瀬名はどんどん深みにはまってしまい…。

瀬名が等身大の高校生だったのが何より良かったです。
何故かBLには年の差のある年下攻め、それも十代攻めをよく見かけますが、十代にもかかわらずやたら世慣れてスペックの高いすでにスーパー攻め様状態なのが多くて、その現実味のなさにもやっとしてました。学生×社会人でそれはドリームすぎるだろ、と。
でもこれは瀬名がとても年相応で、青春真っ只中にある焦燥感やジタバタしている様子が伝わってきてすごく良かったです。十代ならではの愚かさにあふれているというか、高校生って見かけは立派でも子供なんだなと思わせてくれるところがいいんです。
攻め(瀬名)視点なので余計ですかね。
そして瀬名が、荒れていた自分を唯一受け止めてくれた阿南に恋をするのもとても自然でした。

恋をした後、いつまでたっても「先生」の立場を崩さない阿南にじれて(それゆえに更に深みにはまっていくのですが)半分ストーカー状態になったり、教師である阿南の立場を理解することなく突っ走る瀬名の姿は若さ故の暴走だなぁと。
年を重ねた瀬名はそのあたりのことにちゃんと気がつくわけですが、その姿にあぁ彼は決してヤンデレ執着男じゃなかったと安堵してしまって(笑)、これは瀬名の成長の物語なんだなーとしみじみ思いました。

二転三転した終盤、一度は離れたふたりが再開を果たし今度こそちゃんと向き合えるようになるあたりはお話のキモに思えるのに、少々ドタバタ駆け足な印象だったのが残念。もう少しじっくり読みたかったです。
そしてもうひとつ物足りなかったのは、もう少し阿南その人に関することが読んでみたかったな、と。
いつの間に瀬名をここまで思うようになっていたのかが見えづらかったですし、何より大河内との関係を含めてどんな過去があったのかがすごく気になる。その辺りのことを少しでも憶測できる手立てが書き込まれていれば萌えまくれただろうなー…と。

本編後のSSは両方とも阿南視点です。書き下ろしの「さなぎ」がすごく良かったです。
付き合い始めてから3年経った頃のふたりを描いているんですが、かつてのぎりぎりで痛かった瀬名がしっかり成長していて、その姿に涙。立派になったね、ともう子を見守る親の気持ちでした(笑)。
そしていつまでも「先生」呼び名のかなとちょっと疑問に思っていたことが解決?していて、そこもとても良かったです。

「あいのはなし」 凪良ゆう / ill.小椋ムク

愛する男を失くした岸本波瑠は、彼の9歳の息子・桐島椢とあてのない旅に出た。奇妙なことに、椢は自分の中に父親がいると言い、そして時おり本物の彼のように振る舞った。不思議で幸せな三人での生活。だが、幼い椢と他人の波瑠が長く一緒にいられるはずもなく、逃避行は悲劇的な結末を迎えた。――それから10年、あの日姿を消した波瑠を、椢はずっと捜し続け…。時をかけ、三人の想いが絡み合う不思議な愛の物語。

凪良さん、久々の新刊ですね〜。
しかも今回はこれまでありそうでなかった小椋ムクさんとの初タッグ! 実はずっと願っていた組み合わせでしたので嬉しいです♪
でもお話はけっこう重たい系で、…すみませんちょっと疲れてしまいました。。
今回もバレてる上に辛口なので、以下ご注意下さい!

波瑠(受)は子供の頃に出会った売れない役者の裕也をずっと想い続けていて、彼の息子の椢(攻)と三人で過ごす満たされた時間がずっと続くことを願っていましたが、19歳の時、裕也が突然の事故で亡くなってしまう。
裕也の死を上手く受け入れられない波瑠は、「自分の中に父ちゃん(裕也)がいる」と言い出した9歳になる椢と当てのない逃避行に出ます。
けれども行方不明になった椢を探す裕也の家族によって波瑠は誘拐犯として追われて逮捕され、ふたりは引き離されてしまいます。
それから10年、服役後は名を変えてひっそりとバーのウェイターとして生活していた波瑠と成長して役者になった椢は再会を果たし、止まったままの時間が再び動き始めますが。

読んだことのあるものの中でですが、年の差とキャラの設定は「真夜中クロニクル」、受けが冤罪で社会的制裁を受けているのは「夜明けには優しいキスを」、幽霊譚めいたところは「まばたきを三回」などなど、色んな過去作品を髣髴とさせるお話でした。
凪良作品でここまで色んな既視感のあるお話って初めてかも。

波瑠と裕也は恋人関係にはなくずーっと波瑠の片思い状態で、その想いを告げられないまま裕也を亡くしてしまった波瑠は、その後も裕也の死を受け入れられないほど気持ちを引きずったまま。
そんな壊れそうに危うい波瑠を、裕也の忘れ形見の椢が小さい頃から変わらずすっと想い続けているという、ちょっと不思議な三角関係です。
波瑠視点の「夏の檻」から椢視点の「Re:」へと続き、また波瑠視点「あいのはなし」へと戻るという三部構成。

純粋にいいお話だと思います。
なんですけどキャラにもお話にも萌える部分がなくて、BL読んでいるはずなのになんだか途中から何を読んでいるのかわからなくなってしまいました。
そしてコミカルな気配の一切ないシリアス一色な内容なので、読んでいるうちに疲れてしまい…。
やっぱり凪良さんはユーモラスな雰囲気のある作品の方が好きですねぇ。

波瑠はかなり内向的で後ろ向きな性格で、そこに誘拐犯に仕立て上げられてしまう不幸まで合わさって前に進めない状態にいることはもう気の毒すぎましたが、しゃべり方や振る舞いはぞんざいなのに中身はとんでもなく繊細にできていることに何だか共感できず…。
椢はそんな波瑠とは対照的な天真爛漫タイプかと思いきや、椢視点で実はそうでなないことが判明。見ようによっては、彼はかなりのヤンデレ執着攻めですよね。
たった9歳で波瑠を守るために裕也を演じてしまうほど波瑠が好きで、こちらもその想いを抱えたまま前に進めずにいるという。
椢がなぜそこまで波瑠を好きなのかがよく解らなくて、このふたりが恋人同士になることに理解が追いつかなかったです。お互いがかけがえの無い存在であることは解るんですが。
そもそも、オムツのころから知っている相手にそういう感情を持てるものなのかなぁという疑問が最後まで拭えず…;;
個人的に、波瑠と裕也がふつうに幸せになるお話のほうが良かったかな。
…と思うのは、どーしても攻めとしては椢よりも裕也の方が好みだからですかね(笑)。

波瑠の父親のことや背中の火傷やそこから派生するいじめの過去などは、ちょっとやりすぎではと思ってしまいました。別にこれらの設定がなくてもお話は成立しますよね。ならわざわざここまですなくてもよかったんじゃないのかと。
凪良さんのこうしたキャラの「可哀想」設定や泣かせる演出には時々すごく引っかかることがあるんですが、…私だけ?(汗)
そんな、色んなことにしんどいなぁと思いながら読んでいましたが、最後、波瑠の働く店の常連の刑事さんが理解のある人だったことには救われました。

賛否両論あるだろうラストの手紙のエピソードは、唐突に感じたけれどもありだと思いました。
もう完全にファンタジーなんですけど、でも椢が演じていた中で生み出した存在じゃなくちゃんと裕也がふたりを見守っていたんだなとじーんときました。
もう共に生きることがかなわない存在になってしまった彼が、波瑠と生きる誰かに嫉妬するのではなくずっと見守ってくれていたということにとても深い愛情を見た思いです。…やっぱり波瑠は裕也と幸せになってほしかったなぁ。

今回、つくづく天邪鬼な私にはこういう系統のBLは合わないようだと実感です;
そしてあとがきに、なんだかんだと重め設定を年に一度くらい書いてしまう〜とあるのにいやいや最近こういうお話ばかり続いてますよと突っ込んでしまったのは私だけですか;
そろそろコミカルな凪良作品を読みたいーーー

「お菓子の家 〜un petit nid〜」 凪良ゆう / ill.葛西リカコ

リストラされた加瀬は、強面なパン屋の店主・阿木に声を掛けられ、バイトをすることに。無愛想で人との付き合い方が分からない加瀬にとって、店の温かな雰囲気は馴染みがなく、戸惑うばかりだった。けれど火事に遭って阿木と同居することになり、彼の優しい手にどうしようもなく惹かれていく。優しくされればされるほど阿木に依存してしまい、溢れそうになる感情に加瀬は…。

レーベルもイラストレーターさんも変わってますが、花丸文庫から出ている「夜明けには優しいキスを」のスピンオフ作品。いろいろと論議を醸したあのDV男・加瀬のその後です。
私は、前作はとにかく主人公が大嫌いで全然好きになれなかったんですけれど、加瀬があの後どうなったのかがとても気になっていました。作家さんが彼を主役に添えたお話を書いて下さったことに感謝です^^

リストラされて求職中の加瀬(受)は、偶然目にしたパン屋「un petit nid」に貼り出されていたスタッフ募集の記事に目を留めたことがきっかけで、そこの店主・阿木(攻)に拾われてアルバイトを始めることに。
そこは強面だけれども気のいい店主・阿木と彼の亡くなった幼馴染みの未亡人でパン職人の知世、そして知世の息子の央の3人が家族のように仲良くやっているアットホームで温かなお店。
これまでそんな雰囲気とは無縁に生きてきた加瀬は、どうしていいか戸惑うばかりです。
暫くして、加瀬のアパートが火事に遭うという出来事が起こり、加瀬は阿木の部屋に居候させてもらうことになりますが、時間を共にしていくうち阿木の優しさに惹かれていくようになる。
けれども阿木には自分が元で大切な存在を亡くした過去があり、その贖罪のために誰とも恋はしないと決めていることを知り…。

前作では受けに酷いDVをする男として登場していた加瀬が、今作では何と受けになっています(!)。
そこからして受け入れられないという方もおられるかと思いますが、これを読みながら私は、愛情を無尽蔵に与えられたいタイプの彼は攻めでなくむしろ受けになった方が幸せになれるタイプなんじゃないのかと思いました。いや、タイプ的には大柄だし目付きが悪いしでやっぱり攻めっぽいんですけれど(笑)。

加瀬は子供の頃に事故で両親を喪い、その後伯父に引き取られるも虐待を受けてきたという過去があり、それが彼の人格形成に影を落としてしまっているんですね。人とのかかわり方や距離のとり方がうまく掴めず、いつも「ゼロか100か」という極端なかたちでしか誰かと関係を結べない。
それが前作では主人公の要を暴力で縛り付けるDV彼氏という最悪なかたちで出てしまっていました。
その失敗以来、加瀬は「誰かを好きになったら、今度こそ優しくしよう」と誓っていますが、阿木やお店の人たちとの温かさの前にも、やはり他者とどうかかわったらいいのかが解らなくて戸惑うばかりなのです。
虐待を受けた過去から来ているので仕方がないですが、こうした加瀬の「人と繋がれない」感覚は見ていて苦しいです。
もうちょっと神経太かったらまた違っていたかもしれないのに、それとは逆の細かいところに気がついてしまうような繊細さがあったりするから、余計に辛い。
ここまで極端ではなくても、多少はそういう感覚がわかる方には切なく映ると思います。

加瀬を受け止めてくれる阿木は、29歳の加瀬より8つ上の37歳。彼も加瀬に劣らず辛い生い立ちをしていますが、何でもネガティブ思考の加瀬とは違って根が明るく、年の功ゆえの包容力があるのでとことん面倒くさい加瀬という存在を包み込んでくれたのですね。
阿木が重い過去を抱えながらも加瀬のようにならなかったのは、武藤と譲という仲間がずっと側にいたからなのでしょう。それゆえに、譲を喪ったことをずっと抱えて生きていたんだろうなと。そういう面に気が付くと、いつもは軽い調子のおっさんだけどもとても優しい情の深い男なんだとわかってきます。

阿木の過去や知世との関係の誤解などなどいろいろ波紋を広げる問題が出てきますが、どれもそんなに深刻にはなっていない印象です。
というか、どれもこれも加瀬のネガティブ思考がややこしくさせているだけのような(笑)。ひとりでそんなにぐるぐるするなよ! と突っ込みたくなることもしばしば(笑)。
そんな中、「もう二度と感情にまかせて暴力をふるったりしない」と決めた加瀬が衝動的に暴力に出ようとした時になんとか踏みとどまったことや、誰かに真っすぐ愛されたことで加瀬がかつての自分の愚かさに気が付いたことがすごく心に残りました。

主人公はとことんネガティブ思考だし重苦しい話になってもおかしくないところですが、阿木の軽めの性格と知世や理央やクロの存在が全体をほのぼのとさせていて、暗いイメージは不思議とありませんでした。
本編後の阿木視点のSS「甘猫」では、阿木の目から見た加瀬がいかに可愛かが伝わってきて(笑)、もうすっかり甘々バカップルじゃないかと思ってしまいました(笑)。
前作で可哀想で仕方なかった加瀬に、こんな温かな「居場所」ができて本当によかった。
読後はとても温かい気持ちになれる作品でした。

「夜明けには優しいキスを」

「夜明けには優しいキスを」 凪良ゆう / ill.高階佑

朝なんて来ないと思ってた―。フリーターの西塔要はある秘密を抱え、自分には幸せになる権利はないと日々ひっそり生きてきた。バイト先の無茶なシフトや恋人の加瀬からの暴力すら黙って受け入れる要を、バイトの後輩である池上公平はなにかと気にかけてくれる。最初は苦手だったのに、公平の明るさと優しさに触れるうち、要は次第に惹かれてゆく。けれど受け入れられない。公平を好きになってはいけない。過去の秘密が要を縛りつけ、二人の仲を疑う加瀬の執着も日毎にエスカレートしていき…。

凪良さんのディープな作品として有名な、そしてどこを見ても好評な作品ですが、、ちょっと合わなかったです。ゆえにかなり辛口評価です。。

フリーターの要(受)は、過去に犯した過ちのために自分に幸せになる権利はないと自分を罰するかのように過酷な環境で働き詰めている日々。更に恋人である加瀬からのDVも甘んじて受けている状態にあります。
そんな彼の生活に、バイトの後輩で明るくおせっかいな公平(攻)が関わってきたことで要の気持ちが動き始める。そして公平に惹かれていくようになるのですがそれが加瀬に気付かれてしまい…。

あとがきで蟹○船と言われているような現在の労働問題やらDVやらを取り上げた、BLには珍しい重たい内容もしんどいですが、この作品、何より受けも攻めも苦手です。
まず、要が背負っている過去というのが辛いことには間違いないのですが何かすっきりしません。
彼が直接手を下したわけでもなし、要の家族がそこに住めなくなるほど周りが過剰反応してしまうことなのかなと疑問に感じます。相手の遺族がそう仕向けたとかなら納得ですがそういうこともなく、最後は和解しているのを見ると何かそこまでしなくてもなーと。要という不幸なキャラを作るための演出が中途半端に過剰なのですよね。そのことが公平にバレるシーンも都合良すぎて気になりました。
で、それゆえに幸せになってはいけないとフリーターとしてぎりぎりの生活を送っているわけですが、それは仕方がないとして、自分を罰するために加瀬という他者を利用しているのが何だか許せなかった。
加瀬は愛情の足りない環境で育ったために愛情表現の上手くできないDV男ですが、その彼の暴力を要は利用しているんですよね。加瀬はそら酷いDV男ですが何だかとても同情してしまいますし、贖罪するのならこんなかたちで他人を巻き込まずにひとりでやれよという気分になってしまいます。それはただの自己陶酔なのでは? と。
そして本当に駄目だと思った決定打は、女子高生の遺影を拝みに行った後の要の「ずっと怖がっててごめん」というセリフ。これでは罪を償っていたのではなくて単に逃げていただけなんじゃないのかとさえ思えてきました。こういうのがいちばんダメなんですよね。。
そんな要に手を差し伸べる公平は、いいやつなんだけれども善意の押し付けがもうひたすら鬱陶しい。彼くらい前向きでアクティブな人間がなぜフリーターなのか、根本的なところで疑問を感じてしまいましたよ(笑)。

で、あのタイミングで公平ではなく加瀬を選ぶというのがまた…。最終的には要は公平とくっつく結末が予測出来るだけに、そこは加瀬を選ぶところなのかとまたひっかかり…。というか、加瀬がひたすら気の毒でした。ほんと、とことん合わないですね〜;;
これ、公平抜きで要と加瀬がくっつくお話だったなら良かったのかもなぁと思ってしまいました。

今回はっきり思ったのは、凪良さんはコミカルな作品の方が好きだなぁと。「全ての恋は病から」しかり、「初恋姫」しかり。重い内容でも「真夜中クロニクル」のようにどことなくユーモラスな雰囲気があればいいのですが(というかそれが凪良さんの持ち味な気が…)、ただ重いだけだと読んでいて疲れます。
その上主役カプが全く好きになれなかったりしたら、もうどうしたらいいのかと。。
このお話は、そういうのが全部揃ってしまっでダメでした。
あと、131ページ以外のイラストの加瀬が公平と見分けがつかなかった。。よく見たら髪の長さが違っていたという。なんだろう、キャラ云々と言うよりは表情が均一なせいなのかな??

 ・「お菓子の家 〜un petit nid〜」(加瀬が主役のスピンオフ作品)

「初恋姫」 凪良ゆう / ill.街子マドカ

華族の流れを汲む企業グループ、佐治家の末っ子、花時雨は、蝶よ花よと育てられたまさに深窓の“お姫さま”。祖父の命を受け、ご先祖さまの主筋となる下町の定食屋の危機を救うために、住み込みで手伝いに入る。とはいえしょせんはお姫さま育ち。慣れない仕事に失敗ばかりしてしまう。さらに若主人の上月一心を好きになってしまい…。お姫さまの初恋。だが一心には秘めた想い人(しかも♂)が。

少女マンガっぽいイラストや如何にもな設定やこれまた「花時雨」なんて如何にもな名前にどうなんだろうと思ったのですが、主人公のキャラが立ったラブコメで予想以上に愉しめました。

元華族の企業グループ一家の末っ子として育った花時雨(受)は、昔気質の祖父から今は凋落している君主筋の上月家に仕えるよう言い渡され、上月家の主筋・一心(攻)が細々と経営している小さな定食屋に居候してその仕事を手伝うことに。
末っ子として蝶よ花よと可愛がられ何不自由ない生活をしてきた花時雨は最初は庶民の生活とのギャップや慣れないことだらけで驚いてばかりいましたが、自分におもねることのない一心にいつの間にか恋をしてしまう。けれども一心は店のアルバイトで高校時代の後輩・ラブのことが好きだということが判明。更には店の土地をめぐって不穏な気配も起こりはじめ…。

あらすじだけ見るとよくあるすれ違いBLなお話なんですけれど、キャラの持ち味が上手く使われたちょっと変わったテイストの作品です。というか正直、最初はいかにもな設定や判で押したような花時雨の深窓の姫君キャラや一心の頑固な江戸っ子ぷりに、最初はこれは間違えたかな? と思ってしまったのですが、意外や意外、このちょとやり過ぎ感すらある設定が見事に生きていて、とても面白かったです。

まず、ただ可愛いだけのとんちんかんな姫君だと思っていた花時雨のキャラがいいです。
一心にラブをオカメと呼ぶなと叱られても変わらすオカメと呼ぶ世間知らずっぽい天然な一面ももちろん可笑しいのですが、世間知らずと思いきや肝心なところではしっかり者で、人が弱っているときにはさらりと心に沁みる言葉や行動で相手を勇気付けられる。おまけに武術の心得もあって、危険な場面でもかなり活躍したりします(!)。
一方の一心はちょっと頑固すぎる性格で、そのために損をしてしまっているタイプ。しっかりしているようで実は何でもかんでもひとりで片付けようと無理をして、いろいろこじらせてしまっているんですね。蓋を開ければ実は花時雨の方が男前だったという(笑)。
そして当て馬キャラのラブ! 「楽歩」と書いて「ラブ」と読む名前にもびっくりですが(笑)、当て馬がオカメなんて呼ばれちゃうようなウーパールーパーなブサキャラってどういうことですか! イラストもすごいし(笑)、こんな当て馬キャラ見たことがないですよ(笑)
容姿端麗な花時雨が、そんなラブを好きな一心に振り向いてほしいともっとぶさいくに生まれてくれば良かったと思う場面があって、すごく切ないんだけれども面白いなと。普通はもっと美しく生まれていればと思うところなのに、とっても美人の花時雨は、一心好みのラブみたいになりたいと思うのですね。
何事にも恵まれた花時雨のライバルにこのラブを持ってきたというのが上手くてやられた! という感じです。
でもラブの、お人好しもほどほどに言いたくなってしまう最後の選択にはあんたそれでいいの?? と心配を通り越して呆れてしまいましたが。

そんな、他の男どもはちょっとは花時雨を見習え! と思えてしまう、読み終えてみればいちばんの男前は花時雨だった作品(笑)。
基本はラブコメ、でも意外と深みもあるお話しでした。

「まばたきを三回」 凪良ゆう / ill.円陣闇丸

幼馴染で恋人の四ノ宮 令が事故で亡くなって二年、斎藤一佳は山間の田舎町で一人静かに暮らしていた。一日の終わりには令の住んでいた家に行き、その日の出来事を彼に語りかける。孤独を紛らわす一佳の習慣だった。ある日、いつものように令の部屋にいた一佳は突然大きな揺れに襲われる。そして次の瞬間、驚きに息を呑んだ。目の前に令が立っていたのだ。綺麗で意地っ張りなままの、幽霊となった令が――。

あらすじを読んだ時に、恋人が亡くなっていて幽霊って一体どういう作品なんだろうかと期待半分不安半分だった凪良さんの新刊。とてもいいお話でしたが、すごく評価の難しい一冊でもありました。
因みにちゃんとハッピーエンドで終わるお話ですので、あらずじで不安になっている方はご安心下さい。

田舎で陶芸家として生計を立てている一佳(攻)は、2年前に最愛の恋人・令(受)を事故で亡くしてから抜け殻のようになっています。ある時地震に見舞われた一佳の前に、幽霊となった令が現れて―。
…というプロローグから始まる幽霊が出てくるお話ですが、ホラーテイストではないです。そしてファンタジーですがエンタメ系の内容でもなくて、これまでの凪良さんの作品が好きな人ならきっと好きになれるお話だと思います。

一佳は令のみならず肉親を全て喪っていて、若くして天涯孤独という哀しい境遇にあります。けれども昔から前向きで誰に対しても優しくて暖かい性格の持ち主。
令はそんな一佳とは逆に、資産家の息子で美しい容姿をしていますが不器用で素直ではないタイプ。
BLとしては衝撃のプロローグの後、お話はそんな彼らが出会った9歳の頃まで遡りふたりが恋人同士になって行く様子を描き出して現在に至るのですが、想像もしていなかった予想外の展開が待っています。
令に関してはいつまでも「そう」だと言い切られなかったのでだぶんこうなんじゃないかなと予想できて、なのでそれに沿ったかたちでハッピーエンドなのかなと思っていたら、見事に裏切られました。凪良さん凄すぎます!
そういうわけで私は作者が巧みに張り巡らせている罠にかかってそこに至るまでまるで気が付きませんでしがたが、勘の良い人なら丁寧に読めば気が付くかもしれませんね。

ノスタルジーに溢れる舞台設定や田舎で陶芸暮らしとか、悪人がひとりも出てこないとか、お話を覆う雰囲気は現実とは絶対違う理想化されたもののはずなのに、そこでシラケたりしないのは凪良さんの上手さだと思います。
そのある種の「リアリティのなさ」が、このありえない、ある意味完全ファンタジーな物語を「ありえそうな話」にしているというか、そんな感じでした。

ラストはきれいなハッピーエンドですが、私はエピローグ以降はなくてもいいと思いました。途中から頭の隅で予想できていた通りのラストで、意外な展開を繰り広げてくれたここまでの内容に、私なぞの頭で想像ができてしまうようなありきたりな終わり方に物足りないものを感じました。ただ「泣ける」だけの作品になってしまっているというか、あのまま終わったほうが作品としての完成度は高かった気がします。
手紙の部分もじわんときましたが、小説であるなら小説でしか表せない文章を用いて表現してほしかったです。凪良さんの表現力をもってすればきっと素晴らしいものになると思うので、余計にそう思いました。

でもまぁ、これはBLで読み手のほとんどがこういうラストを求めているのでしょうね。
で、エピローグなしであのまま終わっていたなら、BLとは違う風合いの作品になっていた気がします。私はその「BLではない」ところに期待してしまったのです。。
そしてこの作品の面白さは、BLに求める萌えがあるとかないとかそいういうところじゃなくて、これ、もしかしたら一般文芸(それこそエンタメではなく純文学よりの)だったら良かったのかもと思ってしまいました。
でも、エピローグなしで終わっていたら一佳がとても孤独な人になってしまっていたことに気が付いて、やっぱりそうならなくて良かったんだとも思ってしまいました。一貫性のない人間ですね〜;スミマセン;;

とか何とか言いつつも、本編後のショート「夏より」はこれ単体でも凄くいいお話で、ふたりのあの結末はありだと思ってしまいました。
ええ、またうっかり凪良さんの策略にかかってしまいました(笑)。こっちはさすがに途中でもしかしてと気が付きましたけれど。

ふたりの結末に泣けたというよりは、作中のほんの些細な部分に涙腺を緩められた作品でした。そういうさりげない部分に「温かさ」や「愛情」がこもっているなーと思いました。

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